人生はプログラミング【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第2回
森博嗣 連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第2回
森羅万象をよく観察し、深く思考すること。そこに新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白いものになる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」がついに単行本化され発売に! 総頁数:344頁。未公開の書き下ろし原稿(第36〜40回)も収録。視点が変わると、人生も変わる!あなたにとって大切な一冊になるとお約束します!
第2回 人生はプログラミング
【プログラムとは何か?】
コンピュータが一般的でなかった時代、つまり僕が大人になるまえには、「プログラム」というのは、「式次第」の意味だった。今でも、この意味で使う人がいるかもしれない。運動会とかイベントなどで、どのような順番で出し物があるのか、が書かれている。そういうものをプログラムと呼んでいた。「式次第」という日本語の方が難しくて通じない人が多かったかもしれない。
式次第というのは、時系列に何を実行するかが記されているものだ。だから、プログラムというのも、そういった手順を記述したものだと大勢が認識しているだろう。「コンピュータはプログラムどおりに動いている」と聞けば、所詮は機械なのだから、人間が命じたとおりのことを繰り返すだけの代物だ、と蔑んでいる。そもそも、そんな蔑むような物言いになるのは、相手を恐れているからであり、コンピュータが人間を支配するような未来になりはしないか、と心配している証拠でもある。
プログラムというのは、あらかじめ予想される条件で場合分けをし、もしAならばBを実行し、AでないならCを実行する、というように道筋を定める。これが無数に存在するため、上から下へ流れるように記述された一連の命令文であっても、どのような動作をするか、何が実行されるのかは、可能性が多数(ときには無限に)存在する。これがコンピュータの優れた点の1つである(最も優れているのは、滅多に間違えないことだが)。
このようなプログラムの流れを、フローチャートと呼ばれる図で示すこともある。最近は、プログラム自体をフローチャートを描いて作成するシステムもある。菱形や矢印などで描かれる図だが、見たことがあるのでは?
ミステリィで天才的な計画殺人の物語を書くと、読者から「たまたまこのような場面になったから成功したが、そんな偶然に頼るような計画を天才がするのか?」といった質問を受ける。
探偵が謎の説明をするときには、流れるような一本道の計画として語られていても、計画された段階では、もしこれがなければ、もしこうなった場合には、というプログラムの分岐(これを「if文という」)が幾重にも練られて計画されているわけで、それこそ、天才的な完全犯罪ならば、それくらいのプログラミングが行われているはずだ。実際には、それらの道筋の一部が実行される。天才ならば、当然微に入り細を穿って計画されていたでしょう、とお答えしている。
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「無事」を重ねることが、人生の成功である。少し気をつけていれば、誰でもできる。ときどき予期せぬ不運が襲ってきても、また少しずつ無事を重ねて挽回していけば良い。勝たなくても良い。負けても良い。またの機会を待てることこそが、成功の価値なのである。(第35回「充実した人生に唯一必要なもの」より抜粋)
◉人生はプログラミング◉水を差しにくい社会◉話し上手と書き上手
◉老人になっても社会人である◉余計なものを持つことの価値
◉気持ちという質量◉「潔癖社会」純度上昇中◉ジェネラリストは存在しない?
◉どうなれば成功なのか?◉適度な自己中のすすめ◉アイデアを思いつける人
◉思いつきの手法◉新しい価値は無駄から生まれる◉頭は知識で肥満になる
◉楽しければそれで良いのか?◉効率か快適か、それが問題だ
◉自己利益が最重要な方針◉作るために必要なこと
◉一人でいることは、自由の象徴◉充実した人生に唯一必要なもの
◉AIが活躍する未来って?◉的確な質問をする能力
◉ネットのモラルはこれから◉フィクションを楽しむ条件
◉いつ死んでも良い生き方とは etc.