自分が負の感情にのめりこんでしまったとき、その泥沼から脱するきっかけとは?【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第20回
【AV女優を辞めるかどうか悩んでいたときも一緒だった】
そんなときに友人が旅行の計画をたてようと持ちかけてきた。彼女は意識しているつもりはないだろうが、毎回私が嫌な状況を脱したいと思うときに誘ってくる。コロナの流行があったとはいえ、五年の付き合いで一緒に旅をしたのは一度きりで、その一度というのもAV女優を辞めるかどうか悩んで、感情がぐずついているときであった。「あのときは京都に行ったなあ」と懐かしさを感じつつ、今回は私が午後からしか身動きがとれないという状況もあって、近場の熱海を選んだ。崎陽軒のシュウマイまんを分け合うところからスタートした旅は、ほぼほぼ無計画で、その場その場の二人の気分で行先を選んでいたが、全てが心躍るもので、どんなに小さなことでも二人で笑いあっていた。
彼女はよく写真や動画を撮影していた。そこに映る私はどれも屈託のない笑顔をうかべ、これでもかというぐらいふざけていた。「こんな顔してるんだね」とぽつりと呟いたら、「昔からこんな感じだよ。二人でいるときだとしっかり者じゃなくて、おふざけモード入るやん。私はこうやって笑ったり、全力でふざけてたりするのを見るの好きだよ。まあ、色々考えすぎるのは知ってるけど、何かあったときは話してよ、特に何もコメントしないから」そんな心動かされるような言葉を、普段の「お腹すいた。何食べる?」みたいなやり取りと同じトーンで話すので、おかしくなって笑みがこぼれてしまった。そこからは色んなことを話した。帰りの新幹線に乗ることには、これまで何を悩んでいたのか忘れるほどに気持ちが軽くなっているのを感じた。