美空ひばりとジャニー喜多川、大物たちへの手のひら返しバッシング。マスコミの正体は「芸能の敵」である【宝泉薫】
現時点で今年最大の芸能ニュースと呼べそうなジャニーズ騒動。その事実上の主役が「週刊文春」をはじめとするマスコミだ。
昨夏以降の統一教会バッシングが飽きられてきたところで、次に叩ける対象として飛びつき、バッシングに精を出している。統一教会のときと違うのは、長年もっぱら、ウインウインの関係でやってきたにもかかわらず、ここへきて手のひらを返すような姿勢も目立つこと。そこで思い出されるのが、半世紀前に起きた美空ひばりバッシングである。
ジャニー喜多川とも縁の深かったひばりは戦後すぐから平成初めに亡くなるまで、歌謡界の女王として君臨。ただ、1973年、コンサート会場からボイコットされ「NHK紅白歌合戦」からも落とされるという逆風に襲われた。
その数年前から、暴力団とのつきあいをマスコミに書き立てられていたこと、折りしも警察が暴力団対策を本格化させていたことが重なった結果だ。実際、ひばりプロダクションの社長を一時、山口組トップの田岡一雄が務めていたり、ひばりの弟・かとう哲也が一時暴力団員となって、たびたび逮捕されていたりもした。
とはいえ、当時の芸能界では暴力団が興行に関わることは珍しくなかったし、哲也については、ノンフィクション作家の上前淳一郎が「イカロスの翼 美空ひばりと日本人の40年」で紹介した興味深い説もある。ひばりが暴力団と距離を置こうとしたため、報復されるという噂が流れ、それを鎮めるために哲也があえて暴力団に入ったというのだ。
その真偽はともかく、この年、マスコミのひばりバッシングは熾烈を極めた。ひばりは哲也との舞台共演を続け、ボイコットした会場に損害賠償を要求するなど反撃したが、最終的に提訴を取り下げ、哲也を降板させるなどの対応を余儀なくされた。
そんなひばり騒動と今回のジャニーズ騒動とは似ているところが多い。
たとえば、ひばりがステージママの加藤喜美枝とともにファミリーの結束をアピールしたところはジャニーズ事務所の同族経営的構造と重なるし、それぞれ、暴力団やセクハラ・パワハラといったものを世間が毛嫌いし始めた風潮が決め手になっている。また、ひばり側は哲也が堅気に戻っていると主張したが、マスコミや警察はそれを信じなかった。これはジャニー喜多川にセクハラされたとする側の証言がかなり雑なのにもかかわらず、それをうのみにして雑な報道を繰り返すマスコミと同質だ。
ちなみに、上前はその本のなかでこう記している。
「世論は常に私刑だ、といったのは芥川龍之介だが、人びとは根拠のないまま哲也を暴力団員にしたがり、かつその姉を葬りたがっていた。警察とマスコミは、その私刑の代理執行人を引受けたにすぎない」
そして、真の執行人は「ときとして生贄を求めて残酷な姿で立ち現れる世論という怪物」なのだ、とも。
なお、世論というものは基本、ひばりやジャニーズといった人気者には優しい。というか、人気は世論、言い換えるなら不特定多数の気分によって作られるのだ。その不特定多数がファンとアンチ、どちら寄りなのかが重要で、そこに何より敏感なのがマスコミだったりする。