プロレスラー関根“シュレック”秀樹 “魂の叫び” 「最後のパワーを振り絞って君は立ち向かったか?」【篁五郎】
あなたが出会うことがなかった人生がここにある。
■ アラフィフでもまだ間に合うから大きな花を咲かせようよ
プロレスと総合格闘技を股にかけて活躍する関根に、筆者は一つ聞いてみたいことがあった。それは2022年9月に行われた「タカ・タイチ・デスペマニア」の前に起きたSNS上でのやり取りのことである。関根はこの興行で参戦が決まっていなかったが、デビュー30周年記念試合が決まっていたTAKAみちのく(1990年代に世界最大のプロレス団体WWF(現WWE)で活躍した日本人レスラー)へSNSで対戦要求をしたのだ。
TAKAは「自分の試合はもう決まっているから」と断ったが、関根は後に引かず申し出を続けた。その粘りが通じたのか、TAKAは5対5のタッグマッチながら関根との対戦と記念試合の2試合に出場することになったのだ。実はTAKAみちのくと関根は昭和48年生まれの同い年。同年代へのエールだったのかずっと気になっていた。
「僕らはベビーブームの頂点ですよね。昭和48年前後を合わせるとみんなすごく人数が多い世代。人口分布で言えば、天才だったり、今いろんな組織を引っ張ったりしている人間がここから出ていないとおかしいくらい。確率的に一番の天才が出ないといけないところだと思うんです。
だけど社会に出たとき、上の世代からいじめられたり、そもそも就職氷河期で芽が出なかったりしたかもしれない。結婚もできずに歳を重ねてきた人もたくさんいます。ベビーブーマーが結婚できないから少子化が加速した面がありますよね。
でも、このまま落ちぶれていいのかって言いたいんですよ。まだ俺らはできるぞって。だからこそTAKAさんとやりたいと思ったんです。だって彼は僕らの世代の天才ですよ。若いときにアメリカで活躍して、今ジャストタップアウト(TAKAみちのくが作ったプロレス団体)でも若手をすごく育てている。自分ら世代の代表なので、まだ活躍してほしいですよね。若い子を潰さずに前に出す気持ちはわかります。でも僕ら世代の代表選手だから対戦要求をしたんです」
やはり彼なりの叱咤激励だというのがわかり、筆者は胸がいっぱいになった。そこで同世代へ向けてメッセージがないかを尋ねてみる。
「同年代は自分も含めてまだ1回も花を咲かせていない奴が世の中たくさんいますよね。みんなに『俺たちまだいけるぞ。かませ犬じゃないんだから最後のパワーを振り絞って一回花咲かせてみようよ』と言いたいです」
2021年の大晦日。さいたまスーパーアリーナで行われた「RIZIN33」で17歳年下のシビサイ頌真(しょうま)との死闘を制した関根は動くことができず、リングにしばらく横たわったままだった。ようやく立ち上がり、勝ち名乗りを受けるときは号泣。ダメージを受けて塞がった左目からも大粒の涙を流していた。マイクを握った彼はこう言った。
「病気があっても、どんな困難があっても、諦めなければ良いことがあるから」
この言葉は同年代へのエールでもあったそうだ。
「僕らが子供の頃、50歳は終わったおじさんたちでしたよね。インターネットとかインフラがすごい整ってきて社会は変わった。今は一瞬で情報が世界を駆け回る時代です。新しい価値観とかが生まれているのだから視野を広く持って諦めずに何でもチャレンジしてみようよって言いたい。おじさんでも若い人でもチャレンジすれば成功できる土壌があると思うので頑張ってください」
関根“シュレック”秀樹のリングネーム「シュレック」は、米国のアニメ映画に登場する醜くも心優しいキャラクター”シュレック”の名を冠したもの。その名の通り「心優しき」男であった。
文:篁五郎