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「日本死ね!!」騒動にある「主人公」の存在 ~瑞巌和尚の独り言~

ネットやSNSでの匿名投稿であっても、時に社会を動かすきっかけとなることがある。その他の匿名投稿と何が違うのか。

 

 最近よく耳にする「ブログ炎上」とは、「ネット上の特定のブログに大量のアクセスや反論コメントが集中したり、そのためにそのブログを管理するサーバーコンピュータの動きが遅くなったり、パンクして動かなくなったりすることを比喩的に呼ぶ言葉(『知恵蔵2015』より)」を指すようです。

 不特定の読者がコメントを残せるブログやSNS等では、常に「炎上」する可能性があるわけですが、そこでの書き込みというよりも、著名人のマスコミでの発言や行動によって誘発されることが多いとのこと。著名人の色々な発言や謝罪に対して、自分の名前を明かさずに、もちろん擁護もあるはずですが、非難・批判・中傷などが日常的に行われているということです。

「匿名の意見」といえば、「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログが大きな注目を集めました。国会でこのブログについて質問された首相は、「匿名である以上、実際に起こっているのか確認のしようがない」と答弁し、他の議員からは「本人を出せ」とヤジが飛ばされました。

「匿名の意見」は、あまり取り上げられないのかなと思いましたが、このブログと答弁が引き金となり、デモや署名とつながり、ついには政府を動かすこととなりました。ここで注目すべきなのは、「匿名」から始まったことではあるが、忘れてはならないのが、「自己を持った人たち」が寄り集まったことにより、成し遂げられたということです。

瑞巌和尚の独り言の意味

 

 かつての中国浙江省に瑞巌和尚がおられました。瑞巌和尚は、多くの人が屋内で静かに坐禅をするのと異なり、石の上で坐禅をされていました。しかも、時々大声を発して独り言のように「主人公(しゅじんこう)」と呼んで、そして「はい」とまた自分で答えます。さらに瑞巌和尚は、「目をさませよ」、「はい」と続けます。そして、「どんな時でも、他にだまされるな」、「はい、心得ました」というのです。

 この瑞巌和尚の話をみると、「主人公」というのは、「自分の心」と考えられますが、それだけではないのです。「主人公」というと、物語やドラマの主役、「主人」というと「あるじ」というように、従わなければならない対象ではありません。瑞巌和尚のいう「主人公」とは、単なる主ではなく、自分を自分であらしめる根源を指しているのです。

 日常のいろいろな事柄に気をとられ、過ぎ去ったことに心を奪われてしまう。また、まだ来ぬ先のことを憂いたり……私たちの「主人公」は、あちこちに出ずっぱりになってしまいます。だからこそ、自分の身体に「主人公」を戻す必要があるのです。そのために「主人公」と、自分自身に問いかけて、自分自身で返答することが肝心なのです。

 では、自分の名前で呼んだらいかがでしょう。それも、親から頂いた「自分の名前」を呼んで「自分の心」を帰らしめるのではなく、「主人公」という言葉を用いるところが深いのです。結果的には、名もついていない、自分そのものと巡りあえるのです。

 名前の有無はともかく、世の中に届く意見には、きっと「主人公」があるのでしょう。「主人公」と呼びかけて、自分そのものがそこにいるのかを確認することの大切さを、瑞巌和尚は時代をこえて、教えてくれているのではないでしょうか。

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細川 晋輔

ほそかわ しんすけ

龍雲寺

住職

ほそかわ・しんすけ。1979年、東京世田谷生まれ。元・臨済宗妙心寺派宗務総長、前・花園大学学長、細川景一氏の次男。元臨済宗妙心寺派教学部長で、『般若心経入門』(詳伝社)で第1次仏教書ブームのきっかけをつくった松原泰道の孫。2002年佛教大学人文学部仏教学科卒業後、京都にある妙心寺専門道場にて九年間禅修行。現在、東京都世田谷区にある臨済宗妙心寺派・龍雲寺住職。花園大学大学院文学研究科仏教学専攻修士課程修了。妙心寺派宗議会議員。妙心寺派布教師。


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