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校外学舎の悲しき夕食【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」40品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」40品目

 

 いや、別にいじめタイムとか勉強タイムとかがあるわけじゃない。学年全体で十数人しかいないのにいじめもクソもないし、小学校時代は神童だった私にとって勉強だったらそんなに苦じゃない。友達と一緒に風呂に入るのが嫌なわけでもない。

 じゃあ何がそんなに嫌かというと、夕食である。校外学舎の夕食メニューは毎回同じで、ごはん、豆腐のスープ、天ぷら盛り合わせ。お新香的なものもあったかもしれない。それだけ聞くと悪くなさそうだが、この天ぷらがクセモノなのだ。

 ちくわ天、レンコン天、タマネギとニンジンのかき揚げ。このラインナップで小学生が喜ぶと思います? エビとかイカとかキスとか、何かひとつぐらい主役級を投入してよ! しかも、揚げたてならともかく、冷めきってしんなりべっちょりしてるのだ。特にかき揚げの油の回りっぷりが凶悪だった。せめて天つゆがあればごまかしも利くが、調味料はウスターソースのみ。これは厳しい。

 子供の頃から現在に至るまで、出された食事をマズいと思ったことはあまりないが、この校外学舎の夕食だけははっきりとマズかった。そもそもこの天ぷらラインナップでは、酒のつまみとしてならまだしも、おかず能力(おかず一口に対して、どれだけごはんが進むかというポテンシャル)は低いし、そのくせごはんの量が微妙に多く、食べ切るのに苦労する。毎回、苦行のような時間であった。

 地元の業者に委託していたのだと思うけど、いったい一食いくらの予算だったのか。安いなら安いなりに、もうちょっと何とかならなかったのか。とてもプロの調理師の仕事とは思えない……などと明確に意識したわけではないけれど、食堂の息子として納得いかない気持ちはあった。もちろん先生含めてみんな文句も言わず粛々と食べていたが、気持ちは一緒だったかもしれない。

  夕食の印象が強すぎて翌日の朝食はよく覚えてないのだが、普通にごはん、味噌汁、玉子焼き、のりとか、そんなものだった気がする。カピカピの塩鮭とかも出たような? でも、前の晩の天ぷらに比べたら全然OK。そして、そのへんで適当に遊んだりしたあと、帰路につく前の昼食は、みんな大好きカレーである。今思えばおそらくボンカレーだったが、カレーはカレー。泊まりがけ遠足の締めくくりとしては最高だ。

 その校外学舎も今はもうない。というか、学校自体が1986年に廃校となった。学校跡地には現在、タワーマンションが建っている。しかし不思議なもので、それなりにおいしかったはずの給食のメニューはほとんど覚えていないのに、あの校外学舎の天ぷらの味だけは半世紀近く経ってもなお忘れられないのであった。

 

文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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