『星の王子さま』の名言「かんじんなことは、目に見えない」は西洋思想への冒瀆だった!?
童話『星の王子さま』に隠された物語
なぜ『星の王子さま』は世界にショックを与えたのか
『星の王子さま』というと、必ず引き合いに出されるこの名フレーズは、じつは、欧米で出版された当初は、あまり支持されていなかったという。西洋思想では、日本などの陰と陽をよしとする思想と違って、思っていることは何でも口にするほうが美徳、つまり、外に現れたもののみを信奉する。そういう国々では、「かんじんなことは、目に見えない」というメッセージには、冒瀆的な響きがあったのである。
それをサン= テグジュペリがあえて言ったからこそ、この本は世界的なベストセラーになったのだろうが、冒瀆的なもののなかに真実があるのも事実である。西洋思想にとっては、六〇年代にビートルズに強い影響を与えたインド思想や、二十世紀末からブームとなったチベット仏教のように、神秘的なショックだったのかもしれない。とはいえ、私たち日本人だって、すっかり西洋思想にかぶれてしまっているから、同じショックを受けるのだが……。
こうしてこのフレーズは、国を越え、時間を越えて、いまや世界じゅうで支持されているのである。それも子どもたちにではなく、立派な(?)大人たちに。
たとえば、アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンは、〝目に見えないものの大切さ〞をテーマにした著書『EQ〜こころの知能指数』(講談社)で、本の冒頭にこのフレーズを引用している。内容は、〝考える知性―IQ〞に引っかけて、〝感じる知性―EQ〞の大切さを訴えたものだが、心の問題を科学的に解明するのにも〝王子さま〞が活躍しているのである。
また、イタリアの心理学者ピエーロ・フェルッチは、四十代半ばで初めて父親になって書いた本『子どもという哲学者』(草思社)のなかで、子どもと向き合うことによって、「かんじんなことは、目に見えない」から生まれたメッセージ「砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ」の意味を、嚙みしめることになったと書いている。
そして、世界的に有名なイタリアの盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリも、日本で初めて公演したおりに、
「私は、フランス人の作家サン= テグジュペリの言ったことの真の意味を考えることで、常に楽観的であろうとしています。こんな言葉です。『ものごとがちゃんと見えるのは、心でだけなんだ。目では本当のことは見えないんだよ』」
と語っている。
日本で目に入る資料だけで、これだけの素晴らしい大人たちに感銘を与えている名フレーズ。もしインターネットで世界じゅうの情報を集めたら、どれだけの信奉者が集まることだろう。私たちも改めてもう一度、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」の意味をじっくり嚙みしめてみなければ……!