「泣きたくなるほど駄目な日」の過ごし方。または何もアイディアが浮かばないときの私の対処法【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第24回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」赤裸々に綴る連載エッセイ第24回。
【わたしにとって「泣きたくなるほど駄目な日」】
数行入力しては消してというのを繰り返している。そんなほぼ真っ白な原稿と対峙して、一体何分が経過しただろうか。散らかった頭の中を整理しようと浮かんだ単語を紙に書き記し、点を繋いで線にしようと試みても、何もまとまっていない文字の羅列が生まれただけであった。「気分転換」という大義名分のもと、気の向くままに散歩をしたり、犬とたわむれたりしても、いまいちピンとくるものは浮かんでこなくて、ただ時間ばかりが過ぎていくだけであった。そのうち無性にお腹が空いてきて、今すぐに必要とはされていないカロリーをどんどん身体に取り込んでいく。ふと我に返った瞬間にその残骸と対面したときに、これまで以上に身体の真ん中がぐんと重くなっていくような感覚に陥り、頭の中にふつふつと沸き立った黒い感情が流れ込んでくる。
こんな日はわたしにとって「泣きたくなるほど駄目な日」だ。これ以上パソコンの前に地蔵のように座っていても、言葉を出力する部分にどろどろのへどろがこびりついているようで、残念ながら何も生まれることはないだろう。こんな日は早めに撤退するのが大事だ。荒れ果てたデスク周りとシンクに積み重なったものを手早く片づけ、ごみをまとめて捨てに行く。部屋を整えた後にシャワーを浴びて、いつもより入念にスキンケアをする。肌触りの良いパジャマに着替え、布団にもぐりこむとすぐに眠気に襲われた。今日は調子が悪かったけれど、きっと明日はどうにかなるはず。そんなことを考えているうちに、深い眠りへと落ちてしまった。