「小さい」を選んだイギリス国民 EU離脱の心理学
「最小限主義の心理学」不定期連載第2回
・きっかけは2014年の「EUの移民法」
2014年1月1日からルーマニアとブルガリアに対してEUの移民法が適用され、イギリスでも働けるようになるというニュースで、これによって「大量の移民がやって来る」という恐怖ムードにイギリスは覆われていた。
ロンドンはすでに多国籍都市だからいい。マンチェスターやリバプールなどの中都市もいい。
しかし、日本と違ってイギリスは、国土のほとんどがカントリーサイドだ。
田舎の風景はすべてが画になるように素晴らしく、各々が質素で穏やかな生活を送っている。
カントリーサイドはアングロサクソン&ケルト系の白人が圧倒的に多く、ロンドンのような経済中心の生き方をしている人は少ない。
そんな彼らにとって、2014年1月以降にやってきた移民がもたらしたのは、「夜に町・村を歩けなくなった」といったものだった。
一部の町では治安が悪化し、殺人事件さえ起こるようになった。
慎ましく、穏やかな暮らしが、直接的に脅かされるようになったのだ。
それが彼らにとってのEUだった。
キャメロン首相は経済性の倫理で、もし離脱すれば年収は14万円ほど下がり、経済は悪化すると主張した。
経済中心に考える人々にとっては、巨大な貿易圏であるEUとの決別は馬鹿げているとしか言いようがない。
だから残留派はわからなかった。「経済規模が小さくなってもいい」という離脱派の心理を。
たとえ将来的に、国家的・企業的な経済が小さくなっても、カントリーサイドの離脱派は「それでいい」と思ったのだ。
キャメロンが投票前日に主張したように「家が建てられなくなり、車が変えなくなり…」(これを何度も主張していた)となっても、町が変わってしまうよりいい。
経済規模が小さくなり、「小さいイギリス」になったとしても、自分たちの小さい世界を守りたい。それが答えだった。
イギリスはいち早く国の目標として、経済成長率だけでなく、幸せ指数を考慮すると決めたはず(「国民の生活への満足度探る 英国の「幸福度指標」が策定へ」「不況が続くイギリス人の価値観に変化か」だが、キャメロンは「巨大なEUと一緒にいないと生きていけない」と主張し続けた。一人ひとりの慎ましい暮らしについては、触れなかったのだろう。
経済規模が小さくなっても、自国のセンスと意思によって国の重要事項を決め、文化を守り、一人ひとりの「小さい」暮らしを尊重する。離脱派のリーダーたちが後半の部分を理解しているかどうかはわからない。ライトウィング的な「自分で決めたい」という部分だけの離脱であれば、彼らは経済規模が小さくなることに失望するかもしれない(「EUに回すお金を自分たちで使える」という発言が多かった)。
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