「学びとは何か?」ドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』を観て考えた 教育の本質と日本の子どもたち【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「学びとは何か?」ドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』を観て考えた 教育の本質と日本の子どもたち【西岡正樹】

パタゴニアの地平線に向かって走る 

 

◾️世界の子どもたちの20人に1人は、学校で学びたくても学べない

 

 「学校とは?」と問われたら、日本の子どもたちは「勉強する所」と応えるのが精いっぱいだろう。また、きっと経済的に恵まれている他の国の子どもたちが応える内容も、五十歩百歩なのではないだろうか。何故なら、そんなことを考えて学校へ通っている子どもなんて、まずいないだろうし、就学する年齢になれば、誰もが学校に行くものだと思っているからだ。 

 日本の人口は約1億2千万人、国土の隅から隅まであらゆる地域に、およそ3万の小学校や中学校が存在し、何かの事情がないかぎりほとんどの子どもは、義務教育として学校に通うことができる。

 ところが、世界に目を向けると、世界の人口はおよそ80億人。そのうちのおよそ20億人が子どもなのだが、学校で学びたくても学べない子どもがおよそ1.2億人いるということが調査結果に出ている。ということは、世界の子どもたちのおよそ20人に1人は、学校で学びたくても学べない環境にあるのだ。

 幸運にも学校に通える子どもであっても、通っている学校の教育環境が、今の日本とはかけ離れた過酷なものである地域は世界中に多くある。ところが、どのような環境にいても、子どもたちは「学校で勉強したい」という強い思いを持ち続けている。元来、人は分からないことは分かるようになりたいと思い、できないことはできるようになりたいと思う存在であり、学校はそのような本性的な学びを保証する「場」なのだ。

 

 さて『世界のはしっこ、ちいさな教室』というフランス映画だが、ブルキナファソ(アフリカ)の僻村(首都ワガドゥグから600km離れている)ティオガガラ村にある土壁と茅葺の小学校、シベリア(ロシア)の遊牧民エブァンキ族のキャンプにある移動教室、そしてバグラディシュの北部(洪水で1年の半分が水没している)スナムガンジ地方のボートスクールが舞台である。過酷な環境の中で、たった一人の教師が子どもたちを導き、そして子どもたちが成長していく、その様子を描いたドキュメンタリー映画だった。

 

 ブルキナファソのサンドリーヌ先生は「国立初等教員養成学校」を卒業したばかりの新任教師。首都ワガドゥグに2人の子どもと夫を残し、単身で、600㎞離れた、全くインフラの整っていない僻村ティオガガラ村に赴任した。そして、初めて教師として働く場所が、土壁と茅葺屋根の粗末な教室であり、50人もの子どもたちの担任なのだ。「新任教師には過酷すぎますね」と訴えるサンドリーヌ先生に対して「すぐに慣れますよ」と返す校長先生。(日本の教師から言わせてもらえば、どちらの感覚もおかしい)

 

 シベリアのブァシレブァ先生は、教材や机椅子を乗せた橇(トナカイが引っ張る)で子どもたちが暮らすエブァンキ族のキャンプ地を巡っている。移動式の遊牧民学校は一張のテントなのだ。ブァシレブァ先生は、1か所のキャンプで10日間指導すると、次のキャンプ地へ移動していく。それを繰り返しているブァシレブァ先生は、「これは、エブァンキ族の子どもたちの未来のために、自分に与えられた使命なのだ」と言う。

 

 バングラディシュのアクテル先生は、モンスーンで1年の半分が水没してしまう地域のボートスクールの教師だ。この地域はアクテル先生が生まれ育ったところでもある。「学ぶことによって自分の未来を切り開いていく力が持てる」と信じるアクテル先生は、特に女性に自立した力を持つことの大切さを訴え、児童婚や児童労働の犠牲にならないように子どもたちを啓発している。22歳とは思えない信念の強さは、どのようにして生まれたのだろう。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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