社会から受けるコントロール【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第8回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第8回
【他者が決めたことに従う人々】
季節の風物詩を大事にしている人が多い。僕の奥様がそうである。満月を見て饅頭を召し上がっている。そんなに好きなら、毎日食べたら良さそうなものだが、満月は人工ではなく自然なので、その点はほのぼのとしている。
スケジュールだけではない。たとえば、自分の命を守るためにヘルメットが必要だと判断すれば、それを被れば良いだろう。社会のルールに従うまえに、自分で決めた方が良いはずなのに、どういうわけか、大勢と同じようにしなければならない、と考える。
また逆に、自分が判断したことを大勢にも従わせようと訴える人も多い。なにかが危険だと自分が感じたなら、自分はそれを避ければ良い。自分が研究した成果を広めたいなら、わからないでもないけれど、親切で他者に訴えているのなら、もう少し穏やかに丁寧に説明した方が相応しい。
マナーだとか、ルールだとか、そういった決め事を持ち出す場面も散見される。しかも、それに従わない人を非難する。もし明確に違法ならば、警察が取り締まるべきことだ。「こうしてほしい」というようなものは、単なる「願望」であって、すべての人が従う義務はないのは自明。
ところが、日本には「こうしてほしい」と社会に真顔で訴える人が沢山いて、その最たるものはマスコミだろう。みんなで願望をいい合って、大勢の声を集め、少数派を追い詰めるようなシステムになっているらしい。マナーは願望であるが、ルールは願望ではない。これだけは区別してもらいたい(これも願望だが)。
ところで、毎日の生活で、自分のスケジュールを自分だけで決められない人が意外と多いように観察される。未成年や社会人になりたての人はしかたがないけれど、年齢が上がるほど、自分で自分をコントロールできるようになっているはずだ。違うだろうか?
毎日何をするのか、自分で決めていますか?
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森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。