突然の病に侵され、教師の道を断念せざるを得なくなった元同僚 彼女が今も忘れられない「下校時間のある風景」【西岡正樹】
学校帰りの風景がいつまでも心に残った理由
◾️教師になってみると、想像をはるかに越えることばかり
今年は教員採用試験に落ちてしまい、正式に採用されなかった。それでも、西田先生(仮名)は、できるだけ早く学校現場に行きたいという思いを持ち続けていた。すると、友だちから嬉しい情報が飛び込んできた。どこの自治体にも臨時か非常勤の採用枠があるというのだ。西田先生は早速、T市の教育委員会にそのための申請書を提出した。そして、4月、運よく、T市のY小学校に非常勤講師枠で赴任するができたのだ。
実際に教師になってみると、想像をはるかに越えることばかりで、思う通りにはいかないことが多い。子どもたちは、元気が良く、担任ではない新任の若い教師には教師というよりも近所のお姉さんのように接してくるし、隙を見せると、ちょっかいばかりかけてくる。また、教師集団はといえば、30歳過ぎの個性の強い人ばかりで、教師経験もなく最も歳若い自分が、その先輩方とどのように接していいのか分からず、戸惑うばかりだった、
しかし、1学期が終わりに差し掛かる頃、子どもに対しても他の先輩教師に対しても、自分を素直にぶつけているうちに、相手と自分との関係が少なからず感じられるようになった。お互いの思いを素直に言葉にすることの大切さをあらためて感じながら、お互いの気持ち良さを大事にしながら行動していると、教室では少しずつ居心地よくなってきた。
しかし、大人は難しい、職員室ではなかなか同じような居心地よさを得られない毎日だ。授業もなかなかうまくいかず、日々、自分の力のなさを痛感するのだが、それをどのようにすれば克服できるのか、それが分からなかった。
そんな自分に
「授業を観においでよ」
「この本を読んでごらん」
声をかけてくれる先生がいたことはありがたかったが、それでなんとかなるようならさらにありがたいのだが、そう簡単にはいかないから困る。
2学期になり、秋も深まり、中庭で枯れ葉が舞っている様子を何度か見かけられるようになっていた時だった。西田先生は非常勤だったので、時々子どもたちの帰る時間に自転車置き場にいることがある。その時もそうだった。ランドセルを背負った3人の子どもたちが、手にどんぐりや綺麗な枯れ葉を持ってやってきたのだ。そばに先生がいることをわかっているのか、いないのか。
「先生、びっくりするかな」
「どうかな」
「びっくりするといいね」
と言いながら、子どもたちは手に持ったどんぐりや綺麗な枯れ葉を、大きなバイクのサドルに、置いた。
それを近くで見ながら、西田先生は自分のことのように嬉しくなった。そして、自然に笑顔になっている自分を感じた。
その大きなバイクの主は、東谷先生(仮名)だった。子どもたちに、こんなサプライズをしかけられる先生の気持ちって、どんな気持ちなんだろう。いつか、東谷先生に訊いてみようと思うと同時に、「そういえば、東谷先生のクラスの様子が気になっていたんだ」ということを思い出した。