突然の病に侵され、教師の道を断念せざるを得なくなった元同僚 彼女が今も忘れられない「下校時間のある風景」【西岡正樹】
学校帰りの風景がいつまでも心に残った理由
◾️突然の病に侵され、教師の道を断念せざるを得なくなってしまった
秋から冬になる頃、西田先生は東谷先生に自転車置き場で見たことや子どもたちと話したことを伝えた。
「へー、そうだったんだ。あのどんぐりや葉っぱは何かなって思っていたんだけどね。誰も何も言わなかったな。あいつら、そんなこと言ったのか、あの子たち面白いだろう」
東谷先生は、言われた言葉を淡々と受けとめ、驚いた様子も見せず、「あの子たち面白いだろう」と返してくる。ちょっと拍子抜けした。自分の知らないところで子どもたちが予想外の行動を起こしていたら、もう少し驚くだろう、感動するだろうと思うのだが、そんな気持ちの欠片も見せない。
「私、めちゃくちゃ感動したんですよ。あの子たちの様子、本当にかわいかった」
「誰がやったか分からないけど、やりそうな子は何人かいるよ。予想はつくね。はずれているかもしれないけど。あのどんぐりと葉っぱは家にまだあるぞ」
淡々と話す東谷先生を見ていると、やはり自分の感覚とは全く違う人なんだなということが分かったと同時に、4年3組の子どもたちが言った「自分らしい先生になれ」や「目指すのは違うと思う」という言葉が、ちょっと理解できたような、気がした。
「私らしい先生ってどんな教師なんだろう」
そう思っていると近くにいる東谷先生の姿が薄ぼやけて見えた。きっとこの先生は私の思いのはるか遠くにいる人なんだろうなと思いながら、より目を凝らして東谷先生を見た。
「ようし、教師をちゃんとやってみよう。どれだけできるか分からないけど、西田ってこんな先生だよねって言われるような教師を目指してみよう」
春が来ると、非常勤講師だった西田先生は他校に異動した。その後、2つの小学校でも非常勤講師をした。ところが、2年後、西田先生は突然の病に侵され体が動かなくなり、教師の道を断念せざるを得なくなってしまったのだ。
それでも時々、西田先生は3年間の教師生活を振り返りながら、もし自分があのまま続けていたらどんな教師になっていただろうと思うことがある。そして、その時に必ず思い出す光景があるのだ。
「先生びっくりするかな」
と嬉しそうにどんぐりや綺麗な枯れ葉を、バイクのサドルに置く子どもたちの顔が浮かんでくる。その時、西田先生は喉の奥底から出てこようとする「できるならもう一度チャレンジしたいな」という言葉を飲み込むのだった。
文:西岡正樹