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右肩上がりでない未来【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第9回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第9回

 

【仕事がなければ不自由はない?】

 

 スバル氏は、キャスタ付きの椅子を通販で取り寄せ、それに座って家中を移動している。アルミ製の軽量松葉杖も購入して、屋外へも出ていく練習をしている。僕は、何十年か振りにリンゴをナイフで剥いた程度で、特に不自由なく過ごしている。

 不自由を感じないのは、仕事がないからだ。仕事があったら、こうはいかないだろう。多くの人は、仕事があることが普通で、当然で、自然だと思い込んでいるけれど、実はその反対で、特別で、異常で、不自然な状態なのである。生活するためにやむをえず仕事をしなければならない、という特殊な環境に陥っている。どうしてそうなってしまったのか、スマホに手を当てて考えてみよう。

 

日本製のライブスチーム(蒸気で走る機関車の模型)。ここ数年の間に、日本のメーカは衰退し、いろいろなジャンルから撤退している。マイナな趣味こそ需要になるとは考えなかったようだ。

 

文:森博嗣

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』2024年1月17日発売✴︎

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。どうぞご期待ください!

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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