私が私とうまく付き合っていく上での〝一番大事な約束事〟とは【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第33回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでいてほしい」赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第33回。神野が「2024年の闘争宣言」を綴った。
【京都での年の瀬】
冬の雨は嫌いだ。何重に布を着込んでも、身体の端からじわじわと冷たくさせていき、芯の部分までも硬くさせ、全ての温度を無にかえしていく感じがするのだ。それが一年の最後なら尚更そのように感じてしまう。いつもと同じ24時間を繰り返しているだけと頭の中では分かっているはずなのに、一分一秒がなぜか惜しく感じてしまう。「ああ、何かしなければ」と思うほどに焦燥感を募らせていき、何気ない一瞬一瞬に意味を持たせてしまおうと思うのだ。
2023年12月31日。私は京都にいる。頭上から無常に降り注いでくる冷たい雨粒を浴びながら、宿への道を足早に進み続け、ようやくたどり着いた。明日の朝に東京にとんぼ返りするのだから、早く寝ないといけないはずなのに、何日間か続いている休暇の中で一回も開くことが無かったパソコンをスーツケースの奥底から引っ張り出し、電源を入れる。自分で設定した年始の締め切りは随分と先で、しかもきっとこれからのスケジュール的にも、ある程度まとまった時間をとって書くことはいくらでもできるのに、今すぐ私の中、私の心に溜まっている全てを吐き出さないと、真っ暗な感情の液体の中で息が吸えなくなってしまう気がしてしまうのだ。そうならないために、こうして言葉に、書くことにしがみついている。「年の瀬まで私は私なんだな」と自分でもおかしくて笑ってしまったけれど、無我夢中になっている間にいつのまにか日付は2024年1月1日を表示していた。
2023年の一年間で、私が私とうまく付き合っていく上での約束事みたいなものをいくつか見つけた。なるべく夜中に作業をしないだとか、よっぽどの緊急事態が発生しない限りは睡眠時間を削ることはしないとか様々あるが、今回は私が見つけた中で一番大事なことを、今年一年間の抱負と絡めて話していきたいと思う。
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