島田雅彦 独占インタビュー 第3回
モラルを守っているのは、政治家でもなく、経営者でもない、
路上で戦争をやめようと言っている人たちなんだ
小説家・島田雅彦が語るこのふざけた世相を生き抜くためのサバイバル・テクニック 第3回
市民のモラルは低下していない。
モラルに忠実に働いている人たち。
こういう人たちが報われないといけない。
――いまはネット右翼、いわゆる「ネトウヨ」の人たちの勢いがすごいわけですけど、左翼のことを「サヨク」とカタカナ書きしたのは、島田先生が最初ですよね。
どういうきっかけでカタカナにしようと思ったんですか?
島田 私が通っていた高校、大学にも学生運動の残滓みたいなのがいて、そういう連中がうざくてイヤだったんですね。
ああいうアタマの硬いベタな人たちより、もっと左翼リベラルとして考えられ得ることがあるのではないかと思ったわけです。
学生時代はロシアン・スタディでしたから、ソ連の全体主義体制の実体をある程度把握していました。そんな中でソ連における人権侵害に抗議するとか、そういった市民人権運動にカジュアルに関わったんです。
これからは、一人ひとりの市民の良識とか、公共心とかをベースに行動するんだと。
それが「サヨク」だったわけです。現在、カタカナで「サヨク」を検索かけると、上位のほとんどが右翼のページでね、左翼批判のネトウヨの書き込みばっかりが出てくる。
もともと左翼を「サヨク」とカタカナ表記しだしたのは島田雅彦である、ということは何スクロールかしないと出てこない(笑)。だから、自分がカタカナにしたことへの責任は取っているつもりです。
――「サヨク」の生みの親として?
島田 そうです。いわゆるサヨク的なスタンスというのは、知識人一般のスタンスと重なる部分があって、けっこう外国に行くと話が合う。ウヨクというのは割と国内の問題に関わっているし、けっこう自己栄光化している。
自分が勝手に重大問題だと思っていたり、自分で偉いと思っている人たちですから。外国行ったら話が合わないんですよ、誰とも。
――確かに、外国人から「実は隣の国のヤツらがけしからんヤツらで困るんだよ」とか言われても「ハア?」ってなりますもんね。
島田 だから運動と言っても、国内の仲間内の中で完結してしまって、組織の中で盛り上がるだけの運動で終わってしまうものなんですよ。
ところが、サヨクというのは世界市民的な広がりがあるんですよ。だから、サヨクの方が世界的には有利なスタンスだと思っています。
――確かに、「インターナショナル」なんて歌もあるし、メーデーのときに歌うあれも「聞け万国の労働者」ですもんね。
島田 そうでしょう。参院選で応援していた三宅洋平くんは、惜しくも落選してしまったけれども、市民の公共心に基づいて行動しているのだから、反自民の選挙応援ボランティアとかも、自分のできることを、自分なりの危機感の動機を元にやっているわけだから、大いにやればいいんです。
サヨクの仲間内から見ると、「ヘタレ」に見えるかもしれないけど、そこはヘタレでいいんです。逆にヘタレくらいじゃないと続かないから。
真面目に考えてたら、馬鹿らしくてやってられないですよ。自分の祈りだとか良心が全部踏みにじられているんだから。
そこはある程度カジュアルにやっていって、仲間内で盛り上がっているくらいのほうがむしろ長続きする。
デモ参加者には家のことが一段落したお母さんや、子連れの主婦の方も多い。派遣とかアルバイトで働いている勤勉な人たちと姿が重なる。
市民のモラルは低下していないんです。安い給料で働いている人たちのモラルが高いから、ブラック企業でさえも支えられているという事実にもっと目を向けるべきです。
モラルを守っているのは、政治家でもなく、企業経営者でもない、路上で戦争をやめようと言っている人たちなんですね。モラルに忠実に働いている人たち。こういう人たちが報われないといけないんです。
「人間だけが持っていると思われていた創造性も、人工知能によって代行される時代が巡って来た。人間界ではわりとヘタレや敗者も生き延びてこられたのだが、人工知能が進化論の原則をよりシビアに踏襲するとしたら、それこそ血も涙もない淘汰を行うだろう」
と、島田雅彦は言う。そうしたなかで誠実に生きようとする人たちが虐げられる世の中はサヨクであれ、ウヨクであれ望むところではないだろう。
『筋金入りのヘタレになれ』と言う、島田雅彦の発言に今後も注目していきたい<編集部>