トングどっち向きに置く?【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」47品目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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トングどっち向きに置く?【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」47品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」47品目

✴︎連載50回分が待望の書籍化『食堂生まれ、外食育ち』、絶賛発売中!

総頁:296頁/定価:本体1700円+税(KKベストセラーズ)

 

 しかし、こうした食事の席でのジェンダーに関する固定観念も、他のさまざまな分野と同様、徐々に変わりつつある。トングの向きを気にするようになって数年後、肉バルみたいな店でパンクな感じのフロア担当女性が、私のほうに向けてトングを置いたのだ。意図して置いたのか、たまたまなのかはわからないが、「おっ」と思った。そして、ニヤリと笑う妻の皿に「ではワタクシがお取りいたします」と言いつつ恭しく取り分ける私。「うむ、かたじけない」と鷹揚にうなずく妻。すぐこういう小芝居をやりたがるバカ夫婦で恐縮つかまつる。

 まあ、わざわざ男性側に置かなくても中間点(時計でいう3時か9時)に置くのが公平な気はするが、フロア担当の彼女は自分側に置かれたときの男性の反応を観察して楽しんでいたのかもしれない。だとしたら、なかなかいい趣味だ。なかには眉をしかめて女性側に押し返す人もいそうな気がする。そういう人は、相手の女性にもフロア担当嬢にも心の中で中指立てられていると思ったほうがいい。

 とはいえ、コロナ禍以降、大皿ではなくあらかじめシェアした状態でサーブする店も増えた。そうなると、トングや取り箸の出番もない。昔から夫婦で通ってる居酒屋にコロナ後初めて行ったとき、刺し盛りが一人前ずつ別の皿に盛られて出てきたのにはちょっと味気なさも感じたが、そのほうが「それまだ一切れしか食ってない!」とか卑しい争いをしなくて済むし、いろんな意味で平等ではある。

 会計についても、今の若い人はデートでも割り勘にするという話を聞く。実際どうなのかと思って検索してみたら、結構いろんな記事が出てきた。

 結婚相談所のツヴァイが実施した2023年の調査(20歳~49歳の未婚男女各150人が回答)によれば、「お付き合いしていない相手との初デートでの支払い」では49%が割り勘を希望。男女別では男性40%、女性58%と、女性のほうが割り勘を希望する傾向が強い。2回目のデートでは割り勘派がさらに増えて52.3%(男性44.6%、女性60%)と過半数獲得。「男性が奢る」を選んだ人も15%いたが、内訳は男性20%、女性10%で、男性のほうが勝手に「奢らなきゃ」と思っている節がある。

 2022年に内閣府男女共同参画局が行った「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」(20代~60代の男女約1万人が回答)でも、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という項目に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人の合計は男性34.0%、女性21.5%と、男性のほうが高め。ここでも男性のほうの「奢らなきゃ」という意識が垣間見える。

次のページ「デート代は男性が払うべきという風潮」に対して、男女ともに実際どう思っているか?

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新保信長 著『食堂生まれ、外食育ち

作家・平松洋子さん推薦!!

「気配をスッと消し、食の現場をニヤリと斬る。

選ばしし外食者の至芸がすごい。」

外食歴50年超の著者が綴る異色の外食エッセイ!
一口に「外食」と言っても、いろんなシチュエーションがある。子供の頃に親に連れていかれたデパートの大食堂。夜遅く仕事帰りに一人で入る牛丼屋。ここぞというデートや記念日に予約して行ったレストラン。気の置けない仲間と行く居酒屋。たまの贅沢のカウンターの寿司屋。出先でたまたま入った定食屋。近所のなじみの中華屋や焼き鳥屋……。
誰もが心当たりあるような懐かしくも愛しき「外食の時空間」への旅が始まる!

カバー&本文イラスト描いたイラストレーターおくやまゆかさん。

イラストが最高に愉快!(全50点収録)

目次

序 「今日のごはん何?」と聞いたことがない

第1章 ノスタルジア食堂

1品目|外国人と鴨南蛮と中華そば
2品目|ランチタイム地獄変
3品目|「天丼」と「うどん天」と「シマ」
4品目|出前とデリバリー今昔物語
5品目|おでん定食というギャンブル
6品目|ハンバーグ記念日
7品目|おいしい味噌汁の条件
8品目|最高のおやつ
9品目|校外学舎の悲しき夕食
10品目|わんこスイカ
11品目|ところ変われば品変わる
12品目|「恵方巻」と「丸かぶり」
13品目|ちくわぶとはんぺん
14品目|「肉じゃが=おふくろの味」って誰が決めた?
15品目|スマホがなかった時代
16品目|Gに気をつけろ!

第2章 私が通りすぎた店

17品目|あの素晴らしい寿司屋をもう一度
18品目|気まぐれすぎる女将
19品目|選択肢のない店
20品目|日本一大きいビアガーデン
21品目|カニ・マイ・ラブ
22品目|国会図書館でナポリタンを
23品目|夫婦の肖像
24品目|サハリンの夜
25品目|インドで大炎上
26品目|開幕前の至福の宴
27品目|私がスポーツジムに通う理由
28品目|かわいそうな寿司屋とその弟子
29品目|残業メシ格差
30品目|よそンちの食卓はつらいよ
31品目|大食いと早食い
32品目| BGMも味のうち?

第3章 外食の流儀

33品目|大盛りはうれしくない
34品目|取り皿問題
35品目|デザート嫌い
36品目|お熱いのはお好き?
37品目|器のTPO
38品目|あんまり尽くされても困る
39品目|スパゲティがパスタに変わった日
40品目|何をかけるか問題
41品目|どの席に座るか問題
42品目|酒飲み認定
43品目|11人きた!
44品目|硬と軟
45品目|人はだいたい同じものを注文する
46品目|トングどっち向きに置く?
47品目|箸と愛国
48品目|ステキなタイミング
おわりに 入れなかったあの店の話

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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