なぜ私はAVという〝セックスをお金に換える行為〟をしていたのか。今ようやく辿り着いた境地【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第36回
【埋まらない感情の穴】
「最近落ち着いたね」
ふいに親友がそう口にした。私がどういうことかと尋ねると、彼女は淡々と言葉を続けた。
「私と会わない一週間のうちに急に人生の駒を進めるのは相変わらずだけど、見てて危なっかしいなと思うことが減ったかも。前はいつでも何かに巻き込まれている感じがあったし、急に何もなしにふらっといなくなりそうな感じがあったから。」
確かに、と思う。他者に依存した快楽や刺激を求めるようなことはしなくなったし、埋まらない感情の穴みたいなものを物質的に満たすようなこともなくなった。ただ単に年齢を重ねたからではなく、ようやく私が求めていたものをちゃんと見極めることができたからだろう。
ずっと私だけの言葉が欲しかった。私の中に渦巻く何かを表現して、そしてそれを正しく外へ排出する術を獲得したかった。その願いはずっと変わらないものの、本当の答えに行きつくまでに随分遠回りしていた気がする。
しかしながら、そんな自分の状況に気がついたのもごく最近のことだ。ずっと書いていても苦しかった。心が感じたまま全てを文字に起こせるわけでもないし、むしろ蓄積していく鬱憤の方が多いのではないかと思うほどであった。
それでも続けていたら、ある日パズルのピースがぴったりとはまるのと同じように、自分のことも、自分が置かれていた状況も全てすとんと腑に落ちた瞬間があった。これまでに経験してきた全てのものと比べても、それは何物にも代えがたい快楽を連れてきてくれたのだ。自分の底に溜まったものを表現できたときの快楽が頂に君臨したとき、「ああ、本当に欲しいものはこれだったのか」とあてもなくさまよう時間が終わったのだと胸を撫でおろした。あれほどまでに自分という存在を深く理解させられたのは初めてであった。
これからも私の言葉は吐き出されるが、いつの日かそれも尽きて、また違う方法で己の内側にあるものを語りだすのかもしれない。そう考えると書けなくなることがあまり怖く感じないのだ。形はどうであれ、言葉の代わりが何になろうと、私が私を吐き出せるのならばそれだけで満足である。
ただ、私の人生から零れ落ち、葬られた欠片たちを見つけて、それらをきちんとすくいあげるまではまだ書き続けていくだろう。
(第37回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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