生まれ故郷と〈親バレ〉という出来事。それでもどこか理解し合えるだろうと期待を捨てきれていない想い【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第37回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでほしい」赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第37回。空から降ってくる真っ白い雪が嫌いになったのはいつからだろう。気がつかなければ呪いじゃなかったのにとも思える。神野が抱きつづけている「生まれ故郷」への想い。
【生まれ故郷と〈親バレ〉という出来事】
珍しく東京で雪が降っている。パソコンの前で作業をしつつ、集中力が保てなくなったタイミングで窓の外に視線を向けると、静かに降り続けている様子が確認できた。どうやら予報の通りしっかり積もりそうだ。私が抱えている仕事は全て家の中で完結するため、朝まで降り続いて交通機関が麻痺したところで私の生活には支障をきたさないし、雪が舞っているのを見て、高揚感を覚えるようなタイプでもない。本来ならばしきりに確認する必要はないはずなのに、こんなに眺めてしまう理由を私は知っている。そんなことを頭によぎると同時に、私の身体はずっしりと重くなっていった。
いつからだろうか、空から降ってくる真っ白い雪が嫌いになったのは。記憶を掘り返していけばそれなりに楽しい思い出―例えば飼っていた大きな犬と雪の中を走り回ったり、友人たちと遊んだりした記憶があるのにもかかわらず、それらを差し置いて私の感情に閉塞感をもたらしてくる。どうしても私の頭の中で雪と結び付けられるのは一つ一つの楽しい記憶ではなくて、あの息が詰まるような土地そのものなのだろう。
こんなことを自覚したのは初めてであった。そもそも私が記憶している限りで東京に来てからこんなに雪が積もったのを見たのは初めてであったし、無意識的に雪が降っている場所への旅行を避けていた節がある。そういえば、最後にあの土地を踏んでからもう4年が経っているのだ。あのときに雪が降っていたかなんてもう思い出すことはできない。
こんな静かな夜に決まって私の思考を奪っていくものがある。もう長いこと顔を合わせていないあの土地にいる血のつながった人間たちについて、次々に考えが思い浮かんではすぐに消えていく。ずっと前、デビューしてすぐの頃にいわゆる〈親バレ〉という出来事が発生した際に、「応援してもらえている」なんてどこかで発言した記憶があるが、それは状況を飲み込むことが出来ないまま、彼らが私を繋ぎ留めておくために苦し紛れにそう発言したに過ぎない。根底にある嫌悪感と揺らいだ私への信頼を抱えたまま、ここまでどうにかお互いを刺激しあわずに、ずっと下手に出ている状況だからこそ今でも関係が繋がっているというのが正直なところである。きっと少しでもダメージを与えてしまえば、それも簡単に崩れ去ってしまうだろう。
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