生まれ故郷と〈親バレ〉という出来事。それでもどこか理解し合えるだろうと期待を捨てきれていない想い【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第37回
【気がつかなければ呪いじゃなかったのに】
「無にかえしてしまえれば」なんて決意した4年前と比べて、幸か不幸か見えている世界の範囲が広がり、より鮮明に見えるようになってしまった。ほとんどの問題は自力で解決できるようになったし、自分の足でどこへでも行けるようになってしまった。何かあったときに真っ先に相談する相手も変化した。あんなに大きいと思っていた背中も今見たらきっと小さく見えてしまうのだろう。
全ての幸せを同時に成立させることの難しさをぼんやりと考えている。あのときのまま無鉄砲に「縁を切ってでも好きなことをやりたい」と今も貫き通せればどんなに楽なことか。私が今やっていることもあまり受け入れられていないし、このまま突き進んでいけば、おそらくどこかで関係が壊れることは予測できている。彼らが望むような道へ戻ることも不可能ではないし、私はどんな環境でもちゃんと生きていける。ただそこは私にとっては酸素が薄くて、恐ろしく息苦しくなるような小さな箱の中に閉じ込められているのも同然だ。穏便に過ごし、老いていく彼らを幸せにした後で、果たして私の人生の地図を描き直すことはできるのだろうか。そんなくだらないことを考えては、すぐに考えることをやめている。
気がつかなければ呪いじゃなかったのにと思う。そして厄介なのは、それが呪いであると思っているのが私だけであるということだ。平行線のままで時間が流れていくのを待つか、形だけでも頭を下げて穏便にまとめていくのか、はたまたすべての痛みを覚悟で、なんて想像できる限りの可能性を広げては、私の中に静かにしまい込んでいく。
恋人や友達のように前触れも無しに距離を置けたらいいのに。結婚相手のように紙切れ一枚で他人に戻れればいいのに。それでもどこか理解し合えるだろうと期待を捨てきれていないのは、この身体の中に流れる血のせいなのか、心の中に居座り続けるオレンジ色の記憶のせいなのか。結論が出るのはもう少し先になりそうだ。
この冬はもう雪が降らなければいい。そして来年は何かしらの出来事で雪の記憶を塗り替えられればと、小さく願うのだ。今の私ができるのはそんなちっぽけなことだけである。
(第38回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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