回り道で函館へ
「砂原(さわら)支線」で北海道らしい車窓を堪能できる旅
北海道新幹線の終着駅新函館北斗駅から函館駅へは、アクセス電車「はこだてライナー」で最短15分かかる。新型車両とは言え、あまり旅情を感じない通勤電車。好んで乗りたくはない。幸い時間がたっぷりあったので、大回りして函館を目指すことにした。
まずは、札幌行き特急「北斗」に乗る。すぐに左手に小沼が現れ、その向こうには駒ケ岳の麗姿が望まれる。やがてリゾート地の大沼公園駅に停まり、大沼の畔を過ぎ、今度は右手に駒ケ岳を見つつ山を越える。
噴火湾が目の前に見えたところで森駅に到着。ここまで29分だった。森駅の跨線橋を渡ったところにあるホームでは僅か1両のディーゼルカーが待っていた。乗りこむとすぐに発車。今特急がたどってきた線路を右に見ながら戻る感じで走るけれど、すぐに分かれて新たな路線を進む。ここまで乗ってきた路線と同じく函館本線を名乗ってはいるが、別ルートで通称「砂原(さわら)支線」という。
同じ函館本線ではあるものの普段特急列車が走らないルートであるため、ローカル線の雰囲気が濃厚だ。鄙びた駅にひとつづつ停車していく。冷房のない車両なので、窓を開けて自然の風を取り込む。乾燥した空気が心地よい。
2つ目の停車駅尾白内(おしろない)を過ぎると、右手に駒ケ岳がはっきり見える。列車は山の東側を走っているから、西側を走っていた特急と合わせると、ぐるりと周囲を一周していることになる。路線の通称名ともなっている渡島砂原(おしまさわら)駅を過ぎると、左手に海が見えてきた。といっても海岸線を走るわけではない。遠目にちらちらと見える程度だ。
列車は時計回りに駒ケ岳の周囲を進み、鹿部駅あたりからは噴火湾とは離れて内陸部へと向かう。森の中をさまように走り、穏やかな丘陵地を抜け、のんびりと旅は続く。東側から大沼の畔へ戻ってくると流山温泉駅。リゾート開発でつくられた温泉の最寄り駅だったが、温泉自体が廃止となったので、駅の存在価値がなくなってしまった。無論誰も乗り降りしないで列車は発車した。
池田園駅を過ぎ、右から線路が合流してきて大沼駅に到着。特急は停まらない駅だが、これでぐるりと一周してきたことになる。10分程の停車時間の間に函館行き特急「北斗」が通過していった。
列車はのんびりと発車し、再び小沼の畔を走り、新函館北斗駅に戻ってきた。北海道新幹線の到着時間ではなかったので、ほとんど乗り降りがなく、さみしく発車。ここからは、「はこだてライナー」と同じ線路を走って函館を目指す。新函館北斗から函館まででも25分。特急に乗車してからだと2時間20分程列車に乗っていたことになる。実にのんびりした回り道。少しだけとはいえ、北海道らしい車窓を堪能でき、終わってみれば、楽しくあっけない旅だった。