パルテノン神殿が真っ白になったのは、大英博物館職員が金ダワシでゴシゴシこすったからだった!? |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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パルテノン神殿が真っ白になったのは、大英博物館職員が金ダワシでゴシゴシこすったからだった!?

研究家•藤村シシンさんに訊く「古代ギリシャの意外な事実」

「西欧文明の源」「白い大理石のパルテノン神殿」「神秘に満ちた神話の国」「哲学者アリストテレスたちが活躍した都市国家」―—と、どこか崇高なイメージがある古代ギリシャ。だが、エーゲ海文明からローマ征服下に入った頃まで約7000年の歴史は、想像以上に多様で、そして“人間くさい“。
作家で古代ギリシャ神話文化研究家の藤村シシンさんに、東京•上野で開催中の特別展「古代ギリシャ展」を通して見えてくる「古代ギリシャの真実」について話を聞いた。

 ——今回の特別展「古代ギリシャ展」では、新石器時代の紀元前6800年から、ヘレニズム時代や古代ローマ征服下の紀元後300年までを古代ギリシャとしています。そもそも「古代ギリシャ」って、何ですか?

 

藤村シシン(以下、シシン)  一般的に研究家たちの間では、狭義の「古代ギリシャ」は紀元前8世紀から紀元後2世紀まで、政治家ペリクレスや哲学者のアリストテレス、歴史家ヘロドトスが活躍した都市国家(ポリス)の時代と世界帝国を築いたアレクサンダー大王の時代など、古代ローマ帝国に支配されるまでの約1000年間の時代を指していいます。中学•高校の授業で学んだ印象からも、多くの人にとっての古代ギリシャは、アテネを中心とする都市国家=(イコール)古代ギリシャなのかもしれません。

——「西欧文明の起源は古代ギリシャ」というイメージがありますが、西欧の人々は、古代ギリシャをどんな風に捉えていたのでしょうか?

シシン  18世紀の半ば、ヨーロッパではギリシャブームが起こりました。ギリシャ美術を模範とする新古典主義と呼ばれるムーブメントで、理性と合理性を追求。また、都市や民主政、秩序など近世の西欧の人々が「文明的」と思っていたものの多くは、古代ギリシャに始まると考えていました。自分たちの起源は理想的であって欲しいと、理想の古代ギリシャがイメージされ、ギリシャは美しく崇高、静謐な存在でなければならなかったようです。
その象徴がパルテノン神殿をめぐる事件。パルテノン神殿というと真っ白な大理石を思い浮かる人が多いと思いますが、現実には違いました。1939年、あの大英博物館で、所蔵するパルテノン神殿の装飾彫刻(フリーズ)に対する破壊行為が発覚する! という大事件が起こりました。
職員が意図的にフリーズ表面に残された色を、何と、金ダワシでゴシゴシと削り取り、その結果、神殿の色彩は永遠に再現不可能になってしまったのです。博物館のスポンサーに「もっと白い方が、ウケる!」と命令されて、真っ白に磨き上げてしまったというのです。当時の人々が、「ギリシャ神殿は白くなければいけない」と思っていた為に起きた事件です。
本当のパルテノン神殿は、柱部分は大理石の白色ですが、建物上部の横長のフリーズ部分は艶やかな色彩で覆われていたようです。私は、日光東照宮の絢爛豪華な彫刻みたいだったのかなあなどと想像しています。

——ギリシャ人自身は、西欧の人々が実際とは異なるイメージを抱き、理想化していることや、「青い空と青い海、白い町並み」というイメージを抱いたことを、どう思ったのでしょうか?

シシン  彼らの歴史は古代ギリシャで終わったわけではありません。その後、ローマ大帝国の支配下に入り、キリスト教文化が花開きます。そして、紀元後4世紀にはビザンチン帝国、さらにオスマン帝国、ヴェネチア帝国と幾つかの帝国の支配下で、多様な文化がこの地で交差し新たな、文化が次々と生まれました。 現代のギリシャ人は一神教のキリスト教徒(東方正教徒)ですが、そうしたこともあってか、“キリスト教文化のギリシャにも注目して欲しい。古代ギリシャだけがギリシャじゃない。……”と、ある一時代だけが評価されることを、少々、寂しく思っているようです。
とはいえ、ギリシャ人はなかなか現実的でもあります。西欧の人々が理想にしたい“ギリシャ”のイメージをまた、今も昔も良く知っていて、それに合わせて、逞しさを発揮しています。 19世紀のギリシャ独立後が、その良い例です。西欧の人々の勝手なイメージのもと、町が古代ギリシャ風に作り変えられ、人々からは色々な文句も出ていました。
が、ギリシャブームが去り、訪れる人が減るという現実を前に、西洋文明の起源であるギリシャイメージを上手く利用しようと考えます。現在のような古代ギリシャの香が残るエキゾチックで魅力的な町を作っていき、商魂逞しく観光立国への道を確立していくのです。
もっとも、最近ではヨーロッパでは研究も進んで、かつてのような、理想をやみくもにギリシャに抱くことはなくなっているようです。古代ギリシャ文明は、エジプトやトルコなどアフリカやアジアなどの影響を受けていて、西欧的なものと東洋的なもの、両面があることが知られています。

 

特別展『古代ギリシャ —時空を超えた旅—』

 

休)月曜日
※8月15日、9月19日は開館。
時間/9:30〜17:00
※土日•祝は午後6時まで。
※金曜日および7月、8月の水曜日は午後8時まで。
※入館は閉館の30分前まで。
場所/東京国立博物館 平成館
(東京都台東区上野公園13-9)
観覧料/一般1600円、大学生1200円、高校生900円
(いずれも当日券)
※「長崎展」が10月14日(金)〜12月11日(日)
 「神戸展」が12月23日(金•祝)〜2017年4月2日(日)に開催予定。

藤村シシンさん
(プロフィール)
作家•古代ギリシャ神話研究家。1984年生まれ。東京女子大学大学院博士前期課程修了、史学専攻。高校生の時に見たアニメ『聖闘士星矢』の影響でギリシャ神話にはまって以来、古代ギリシャに人生を捧げている。ギリシャ語に精通。また、「藤村一味」を結成し、文章、イラスト、漫画、研究、祭儀再現などあらゆる角度から古代ギリシャを本気で遊びながら追っている。

 

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