「カンボジアの小学校訪問」で見た〝学びの本質〟と、日本人が学校教育で忘れてしまったこと【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「カンボジアの小学校訪問」で見た〝学びの本質〟と、日本人が学校教育で忘れてしまったこと【西岡正樹】

分からない問題を解こうと必死に取り組む姿勢がここにはある

終了式に臨む女性たちと子どもたち

 

 ここはカンボジア、アンコールワットで有名な街シェムリアップの郊外にあるSALASUSU(サラスースー)(カンボジアの人たちの就労、就学を支援する日本のNPO団体)の工房兼学校である。ここで働く近隣の村に住む女性たちと地域の子どもたちが、1つの教室にいる。そして、今まさに算数の授業が行われようとしているのだ。私は教師を40数年経験しているが、このような光景を今まで見たことがない。

 女性たちの年齢も、子どもたちの年齢も、それぞれ違う。20歳以上も年齢(とし)が離れる大人と子どももいると聞いた。そんな女性たちと子どもたちが2人ずつ4人で1グループをつくって座っている。1つの教室の中に大人と子どもが一緒にいる時、ほとんどの場合は、大人が子どもをサポートするという役割を担うことが常だが、今回はそうではない。

 まず、チャンナ先生が今回の授業でやるべきことを示した。前回にやったことを確認し、資料を配る。そして、資料を提示しながら話をした。

 「分からないことがあったらこの資料を見て、前回やったことを思い出してください」

 多くの子どもたちは神妙な顔をしているが、時々目があちこちに泳ぎ、気持ちは落ち着いていない。チャンナ先生によって提示された問題は、次のようなものだった。

 

一緒に学ぶ工房の女性たちと子どもたち

 

 

問題)

Aさんは学校に行くため、自転車に乗って615分に家を出発しました。まず友だちを迎えに行くために友だちの家に向かいました。635分に友だちの家に着きました。友だちの家から時速15㎞の速度で15分間走ると学校に着きました。友だちを後ろに乗せて走ったので一人の時より時速3㎞だけ遅くなってしまいました。Aさんの家から友だちの家までの距離は何㎞ですか。また、その時のAさんの自転車の速度は時速何㎞ですか?」

 

 チャンナ先生が配った資料には、速度と時間と距離の関係が簡単な問題と共に示されていた。果たして、今日の目的(時速、時間、距離の関係を理解し、問題を解く)を達成するために工房の女性たちと子どもたちが対等の立場で聴き合い、教え合いながら授業を進めていくことができるのだろうか。

 

 今、私はカンボジアを旅している。いつものことなら、私の旅は気ままなバイク(オートバイ)旅なのだが、今回は少し趣が違う。今回初めて、テーマを持って旅することにしたのだ。そのテーマが「東南アジア(ベトナム、カンボジア)の小学校を訪問すること」である。「小学校を訪問する」と簡単に口にしているが、日本の僻地校訪問(2016年全国44都道府県65校の僻地校を訪問した)とは違う。

 ベトナムやカンボジアの小学校がノーアポで訪問して受け入れてくれるとは到底思えない。そこで、事前に東南アジアの学校に詳しい人を探していたところ、浜之郷小学校の授業研究会に講師として参加されている浅井先生と北田先生より「国際開発センター」の研究員である津久井さんを紹介していただいた。津久井さんは調査研究の為に何度も浜之郷小学校に足を運んでいらしたようなのだが、直接面識はなかった。それでも、私の突然の申し出にも関わらず、津久井さんはベトナムやカンボジアの学校関係者との仲介を担ってくれたのだ。

次のページ「SALASUSU」の始まりは、カンボジアの子どもの人身売買を撲滅するために設立された団体

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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