AV女優「渡辺まお」だった私について「神野藍」が語るなら【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第41回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでほしい」 赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第41回。誰かの欲望を映し出すだけの存在には戻りたくないし、戻らないと誓っている。
【AV作品としての「渡辺まお」について】
春に向けて浮き足立つ空気感とは裏腹に、空からは冷たい雨がしとしとと降り続いている。ちょうどあの日もこんな雨が降り注いできて、身体の芯まで凍えさせた。偶然とは恐ろしいものだなと思いながら、ぼんやりととあることについて考え続ける。
静かな海で、これから先起こる全てを知らずにただ無邪気に笑っている。
今日は誰も知らない、私だけしか知らないあの子の誕生日だ。
日付とは恐ろしいもので、その数字の羅列を見ただけでその日にあった出来事がはっきりと蘇ってしまう。一年の中でそういった日がいくつかある。私にとって節目の日であったり、忘れられないような出来事が起きた日であったりと様々だが、大抵は年数が経てば経つほど思いだすことは少なくなっていく。しかしながら、四年の月日が経った今でも彼女の姿はありありと目に浮かんでくる。
少し前にとあるメッセージが私の元に届いた。複数行にわたってエッセイに対する感想や前職の頃から応援し続けてくれたことが丁寧な言葉で綴られており、最後は私に問いかけを残す形で締め括られていた。
「できれば、これからの神野さんとの向き合い方について、教えていただけると嬉しいです」
このエッセイを連載し始めて数ヶ月経過したぐらいから「これを読んでから作品を見なくなりました」といった言葉や「作品を見ていたのが申し訳なくなる」といった言葉を貰うことが多くなった。そういった内容が届くたびにいつも「好きなようにして良いのに」と思ってしまう。この世界に作品を産み落とした以上いつどこで誰が見ていても構わないし、作品を好きになるのも嫌いになるのも、見るのも見なくなるのも個人の自由だ。
ただ一つ言えるのは、今の私にとってあの頃についてや作品について触れられたところで、何の感情も湧かないということだ。確かにあの頃は己の全てを尽くしていたため、本数が売れることや作品を褒められることが何よりも嬉しかった。あの世界で長く生き残っていくためには、作品も見てもらうことが第一で、そのためならば性的好奇心を誘うような発言や写真を掲載することへも躊躇いがなかった。
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