無駄や退屈を恐れるな!「タイパ」世代に忠告「隙間を埋め尽くすのではなく、隙間を生み出せ」【小西公大】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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無駄や退屈を恐れるな!「タイパ」世代に忠告「隙間を埋め尽くすのではなく、隙間を生み出せ」【小西公大】

「タイパ」を人類学する

撮影:著者

 

◾️「タイパ」の持つ意味

 

 さて、『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」』で大賞をとった「タイパ(タイムパフォーマンス)」という概念は、この上記の時間感覚の反対の極をなす考え方だろう。時間対効果、効率性と生産性、最小の(時間的)コストで最大の満足度や充足感を得るための手法や工夫。そこにあってはならないのは「無駄」であり、「退屈」であり、非能率的・非生産的な行為である。直線的に設定され、身体感覚とは切り離された抽象的な時間設定の内側で、どれほどにパフォーマンスや利益、満足を獲得できるのか、という戦いでもある。ファーストフードやコンビニ弁当、ゼリー状だったりスナック型だったりする朝食や、多くの場合20分ほどしか与えられない学校給食など、「食」をめぐる時間配分は、随分と切り詰められてきた。その他の生産活動は「食べるため」だったりするのだが、「食」の持つ豊かさに対しては、随分と蔑ろにされがちである。

 この「タイパ」がZ世代に浸透しているという話を聞くが、思い当たる節は多い。これまでさまざまな大学で若者たちと触れ合ってきた人間として、彼らが陥っている「空白恐怖症」なる現代病に、随分と心を痛めてきた経緯があるからだ。スケジュールに「空き」が生まれることを極度に恐れるこの傾向は、彼らを「時間の隙間」の埋め合わせに奔走させる。

 実際、学生たちは世間が思っているよりはるかに忙しい。大学での単位取得合戦のみならず、サークル・部活やアルバイト、学生団体の運営やインターンシップ、資格の取得や「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」のためのボランティア活動、海外研修・留学や英会話スクール・免許合宿。「押し活」や「ヲタ活」のために多くの時間を(真剣に、真面目に)費やしている若者も少なくない。通学時間や休み時間も、スマホで得られるショート動画や切り抜き動画の消費で埋め尽くされていく。もはやそこには、「遊び」が生まれる余地はほとんどない。

 「大学はレジャーランドだ」「大学は人生の休息期間(モラトリアム)だ」などというしたり顔の大人は多いが、そんなにのんびりと日々を楽しんでいる学生は極めて少ないと感じる。みんな、何かに追われるように、「隙間」を埋めることに必死なようにみえる。そう、ビジネスパーソンに比しても、彼らの忙しさは尋常じゃない。この状況を「タイパ病」と言っていいくらいだ(ちなみに学生のスケジュールを押さえたかったら、2ヶ月前に告知せよ、というのが大学教員の常識となりつつある)。

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小西公大

こにし こうだい

文化人類学者

東京学芸大学 人文社会科学系 教育学部 准教授 1975年生まれ、千葉県出身。博士(社会人類学)。東京大学、東京外国語大学での研究職を経て、2015年より現職。現在は社会人類学的な知見を基盤として、音楽・芸能やアート手法を用いた社会的ネットワークの構築や地域開発の可能性に関する研究と実践に勤しんでいる。フィールドも、インドとともに日本の島嶼部に広がっている。主な著作は『人類学者たちのフィールド教育:自己変容に向けた学びのデザイン』『萌える人類学者』『フィールド写真術』(共著)など。

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