「きっと今、前進しなくても大丈夫」不安と罪悪感から私を解放してくれた一通のメール【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第44回
【罪悪感に苛まれる私に足りなかったもの】
私に足りなかったものは思考と精神の余白だったのかもしれない。切迫した状況に自らを突き落とし続けた結果、いつの間にか「こうしないといけない」と縛り続け、見えるはずのものまで見えなくなってしまっていた。視野が狭まるほど、思考が狭まり、堂々巡りしてしまう。そうなることで答えがより見えなくなり、本来ならば感じなくてよいはずの焦りに襲われるようになる。
ここ最近、答えが出せているようで何の答えも出ていなかった。頭の中に霧がかかったような状態で、一度答えらしいものを出せたとしても、少し時が経つとぽろぽろと論理が崩れていくような感覚があった。それが長く続くと、あんなにも芯が通っていると信じていた自分という存在が掴みどころがない不安定なものに思え、白くないものが白く見え、黒くないものが黒く見えるようになっていた。
先週、張り詰めていた糸がぷつんと切れてしまった。普段ならば「何を扱おうか」とずっと思考を突き詰め、「あ、この言葉いいな」「この一文を必ず使いたい」なんて思いつくはずなのに、一向に私が動き出す気配を感じ取れなかった。そこには、不安や焦りなんてものもなく、ただただ「無」が広がっていた。その中でずっと保存してあったメールの送信ボタンを無意識的に押してしまったのだろう。
どこか解放感に溢れていた。それは書く行為から逃れたことからくるものではなく、私が私に課していたものからの解放、というのが正しい。そこから今日まで普段と変わった生活を送ったわけではない。仕事を丸々休んだわけでも、どこかに旅行に出かけたわけでもないが、これまでよりも足取りが軽く、頭の中の雑念が取り払われ整えられていた。きっと「止まっても大丈夫」と思うこと自体が、私にとっては何よりの薬になったのだろう。
進むことが正義だった。決断し続けることが正義だった。そうやってうまくやってきたし、そうやってきた自分自身を否定するつもりはない。きっとこれからもそのやり方は大きく変わることはないだろう。
ただ、今は保存してきたメールの代わりに、進むために止まっても良いというお守りのような心の余白を持っている。そう思うだけでいつもよりも思い切り、そして強く前に踏み出せる気がするのだ。
(第45回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
- 1
- 2