自分自身につけた傷、そして自分自身にかけた呪いを解いていく方法【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第48回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでほしい」 赤裸々に綴る連載エッセイ「私をほどく」第48回。
【私の心を裸にする質問】
夜中にふと目を覚ますことがある。朝日が昇るよりもずっと早く、まだまだ夢の中にいたいと願っているのに、妙に意識が起きてしまって戻ろうにも戻れない。もちろんこんな時間に起きている人間もいないし、階下にいる犬も短い呼吸音をたてて眠りに落ちている。時計の針だけが進んでいく。早く寝てしまおうと目を瞑っても、無駄に思考が働いてしまう。本来ならば気にしなくても良いことまで気になりはじめ、徐々に泥沼へと落ちていく。意味のない行為と理解しつつも、気持ちが切り替えられないのはどうしてなのだろうか。
どうにか気持ちを切り替えようと、ベッドのすぐ側に置いてあるパソコンに手を伸ばし、真っ暗な部屋の中で電源を入れる。明るめに設定したディスプレイが眩しくて、思わず目を細めてしまう。どうせだったら映画でも見て朝を迎えるかなんて思って探してみても、ただ画面に並んでいる作品のサムネイルを眺めるだけでその先に進むことはない。
ふと、これまで書いてきたものたちが入っているフォルダにアクセスする。この連載の原稿、SNSで公開した原稿、途中で文章が途切れている原稿、思いついた言葉の走り書き。目に入ってきたものをクリックして、一つ一つ読み始める。それらは確かに過去の私が綴ってきた言葉たちであるはずなのに、不思議なことにこうやって読み返してみると〈わたしの言葉〉というよりも、〈神野藍の言葉〉に思えてくる。そしてそれらは真夜中のぐずついた感情を持て余している私に寄り添うように、スッと心の中に入ってきて心地良く溶けていくのだ。
少し前に、仲の良い友人でもあり、この連載を楽しみにしてくれている人間からこのエッセイについてこれでもかというほどに深掘りされた。「どうして書いているのか」「一番大事に思っていることは何か」「神野にとって書くというのはどういうことなのか」投げかけられる一つ一つの質問は私の心を裸にするような鋭いものばかりだった。もう何も言葉が出ないというところまで数時間話し続け一旦の終わりを迎えたものの、今もなおそのときの質問について考え続けている。