問題は川勝前知事ではない…静岡県知事が交代しても「2027年リニア開通」は無理筋と言える3つの理由【篁五郎】
◾️杜撰なJR東海の環境アセスメントに日本野鳥の会も動いた
水問題の影響は自然の生態系にも及ぶ。
JR東海は、2021年に「自然環境の保全に向けた取組み」と題する資料を示し、地下水位低下による植生への影響について説明。地下水が山深い場所にある尾根部と、浅い場所にある沢部に分けて検討したという。尾根部では土壌に含まれる水分量は雨により左右され、山の深いところにある地下水から土壌が水を吸い上げる現象はほとんどないため「地下水位低下による地表面付近の土壌水分量への影響は極めてわずかであると考えられる」と結論付けた。
地下水位が山の浅い位置にある沢部では、地下水位が低下した場合でも、地表面の土壌が含む水分量は雨水によって保たれ、「多くの植物に影響は生じないと考えられる」が、湿地に繁殖する植物などについては、「影響が生じる可能性がある」とした。さらに過去に行われた長いトンネルの工事により植生への影響があったかどうかを文献調査した結果、「沢部に生息する一部の種において限定的に影響が生じる可能性がある」とした。
しかしJR東海の見解は、生物多様性部会専門部会の委員を務める増澤武弘・静岡大学客員教授が「納得できない」と否定するほど、現実性に乏しい内容であった。
日本野鳥の会によると、リニアが通る全ての県でオオタカの営巣が確認されている。他にも山梨県、長野県でクマタカの営巣が、岐阜県でサシバの営巣があるそうだ。その後、JR東海が行った追加調査でも、ミゾゴイ、サンショウクイ、ブッポウソウ、イヌワシ、クマタカ、オオタカ、ノスリといった絶滅危惧種や、ミサゴ等環境の変化に敏感な猛禽類が見つかった。
これまでのリニアのアセスメントは杜撰と言っていい。評価は、工事の直接的な環境への影響に限定されており、工事現場への道路や土砂の仮置き場は含まれていない。10年スパンの長期的な影響は検証されていないのだ。
日本野鳥の会は「リニア開発は、国民が環境問題や地球温暖化に関心を持つ現代では、時代錯誤の感が否めません」と述べ、「環境や生活への影響は少ないと考える」と述べるのみのJR東海の対応を批判。「地元の支部やNGOと連携して、自然環境や鳥類への影響を回避できるように取り組んでいきたい」と見解を発表。2023年には計画変更を求める要望書をJR東海や岐阜県などに提出している。