脳は正確さよりも確信を好む
「あれ? 何かおかしい」となるのは、
脳の習性が原因だった
確信に満ちた話に惹かれてしまうわけ
脳は「正確」さよりも「確信」を好む
『脳はどこまでコントロールできるか?』(中野信子・著)では、実験に基づいた、脳の習性についても述べられている。そのうちの一つをご紹介したい。
AさんとBさんという二人の気象予報士がいる。二人が予想した、4日間の降水確率が次のようであったとしよう。
実際に雨が降ったのは4日間のうち、3日間だった。
さて、あなたは、AさんとBさんとでは、どちらが優秀な気象予報士に思えただろうか?
実は、この問題は、「正確」さと「確信」のどちらを好むかを聞いた問題だ。
4日間のうち3日間雨が降ったのだから、4分の3、つまり75%が一番正確な値であることに気づいただろうか?
この問題、正確さを重視するならば、「優秀なのはBさん」ということになるのだが、実際は、半数の人がAさんと答えている。
この実験でわかるのは、半数の人が「正確」さよりも「確信」に満ちた予報を好むということなのだ。
著者の中野先生の解説によれば、脳には二重の意思決定回路があり、そのひとつは、あらゆることに迅速に対応する「速いシステム」であると言う。
普通は目の前の情報に対して、迅速に対応するため「速いシステム」がメインに働く。わかりやすく言うと「直感的に」答えを導き出すのが通常なのだ。 ただ、この「速いシステム」は、迅速ではあるが、粗っぽいので間違いを検出する作業が得意ではない。
私たちの感覚とは、そこに矛盾があっても、迅速なシステムによって一度は受け入れるという性質を持っている。そして、とりあえず一度受け入れたのちに、今度は、もうひとつの論理的、理性的に判断し検証する「遅いシステム」が発動して、「あれ? 何かおかしいな?」となるのだ。
したがって、確信に満ちた人の態度を見ると、一度は納得して受け入れてしまう。これは「速いシステム」が行っている。
次に「よく考えると何か変だぞ!」と、あとになって感じ始める。これは「遅いシステム」があとから検証をして、警告を発しているということなのだ。
たとえば、ある政治家の演説に何となく納得してしまうとすれば、その発言が正確さよりも確信に満ちたものであることも大いにあるだろう。逆に考えれば、そうした脳の錯覚に熟知した政治家であれば、聴衆を自分の話に惹きこむことも簡単なことかもしれないのだ。
話を戻すと、「遅いシステム」の判断が、きわめて重要なシステムであることに気づくのではないだろうか。
いわゆる直感というのは、単なる脳の習性に基づく判断であって、それは基本的に粗っぽいことを知っておくべきだろう。そして、「遅いシステム」が発動するのを待って判断ができるようになれば、脳をコントロールしたことにつながるのだ。
さて、この「遅いシステム」を働かせるには、まず心を落ちつけて、自分を内省する時間を持つことが重要であると言う。
そして、時として忍耐力の必要な問題に取り組んだり、粘り強さが必要になるパズルなどに挑戦して、「遅いシステム」が働く習慣を身につけるのが有効らしい。
普段は何の気なしに、自分の脳にゆだねて判断しているが、こうして意識して脳を働かせることで、最大限に脳を活用したことになるのだ。
あなたの脳の可能性は、単に眠っているだけなのかも知れない。