プロレスラー鈴木秀樹「やればいいじゃん」 無気力だった少年から“マット界一面倒くさいレスラー”になった男からの檄文【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

プロレスラー鈴木秀樹「やればいいじゃん」 無気力だった少年から“マット界一面倒くさいレスラー”になった男からの檄文【篁五郎】

写真:鈴木秀樹選手提供

 

◾️「教える楽しさ」とプロレス村以外の見方を知ったWWE時代

 

 WWEからオファーが来た頃、鈴木は引退も視野に入れていたという。

 「だんだん試合をやることが面白くなくなってきてたんですよ。マンネリみたいな感じで。その時の感情とか感覚を言葉にするの難しいんですけど、簡単に言うと嫌になっちゃったっていう感じですかね」

 周りから見たら充実したレスラー人生に見えるが、当人にとってはどこか居心地の悪さを感じていたのかもしれない。見方を変えれば、オファーが来た試合をするだけの日々はつまらないだろう。そんな状態でやってきたWWEからのオファーをどうして受けたのだろうか。

 「(WWEから)コーチと選手両方でと言われたんです。選手だけなら断っていたかもしれません。教えるのも好きだったんで『コーチがやれればいいや』と思って引き受けたんです」

 渡米してWWEのパフォーマンスセンターでコーチ業をスタート。英語が得意ではない鈴木は言葉だけではなく身体をなるべく使った。関節技を教えるときには実際に技をかける動きを見せたり、スパーリングでかけてみたり。しかしそのやり方を他のコーチが良しとしなかった。止めろと言われることもあったというが、

 「俺ネイティブじゃないからできないんだよって。これでやるしかないんだよって返して無視してやってたんですよ。そしたら他のコーチたちもちょっと僕の真似をやり始めたんです(笑)」

 鈴木は不貞腐れるどころか「この人たちとやり合うの面白い」と感じて、プロレスへの情熱が蘇ってきたそうだ。結果的にはWWEから解雇されてしまい、所属レスラー生活にピリオドを打つことになるが、学びは大きかった。視点が変わった。

 「それまでも団体のスタッフとコミュニケーションは取っていましたけど、より意識するようになりました。WWEは毎週生放送だからスタッフの数もすごいんです。ヘアメイクさんもいますし、美術スタッフ、もちろんカメラマンもたくさんいます。彼らとも話して、会社の人たちの視点に立つことができました」

 またWWEとそこに集まる選手の野心が鈴木にとって大きな刺激になったという。

 「WWEは(アメリカの)4大スポーツと同じポジション、 要するに5番目になろうとしてるわけです。スケールが大きい、小さい関係なく、日本のプロレス界とはものの見方が違います。日本のプロレス団体は『プロレス界のトップ』を目指しているわけで、読売ジャイアンツや横浜マリノスと戦ってませんよね。でもWWEは、極論を言えば、レッスルマニア(※6)がNFLのスーパーボールに勝つことを目指していると思うんです」

 若者はみんな「有名になりたい」「金持ちになりたい」といった野心を抱いて乗り込んでくる。ハングリー精神の塊のような若者と過ごすことで「レスラー引退」の考えが消えていったそうだ。

 

※6・レッスルマニア:世界最大のプロレス団体WWEが毎年行う同団体最大のイベント。PPVで全世界10億人も視聴する世界トップ規模の興行でもある。2024年はAbemaで独占生配信された。

KEYWORDS:

オススメ記事

篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

捻くれ者の生き抜き方
捻くれ者の生き抜き方
  • 鈴木秀樹
  • 2020.10.24