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プロレスラー鈴木秀樹「やればいいじゃん」 無気力だった少年から“マット界一面倒くさいレスラー”になった男からの檄文【篁五郎】

写真:鈴木秀樹選手提供

 

◾️世間体にとらわらず「やればいいじゃん」

 

 日本に帰国後、最初に選んだ舞台はプロレスリング・ノアであった。日本のメジャー団体の一つであるノアを選んだのはどうしてなのか理由を聞いてみた。

 「こう言うとプロフェッショナルとして良くないですけど、お客さんとか誰かとかどうこうじゃなくて、自分自身の気持ちが一番でした。インタビューで『試合やるっていいな』みたいなこと言っていたんですけど、それが当時の率直な気持ちです。やっぱりプロレスの試合をするのは、僕にとってはいいことです。自分のやりたいことをやってお金がもらえている。多分一番最初にやりたかったことに立ち戻ってたんじゃないかなと思うんですね」

 その後は全日本プロレス、天龍プロジェクトに参戦しながら、「マット界一面倒くさいレスラー」の名の通り、SNSでも暴れている。多くのプロレスラーは、SNSでは発信のみをしてファンとの交流はほとんどしない。理由はファンからのコメントが多すぎたり、誹謗中傷されたりするからだ。しかし鈴木は、そんなことお構いなしと言わんばかりにSNSでの誹謗中傷コメントにも積極的に絡んでいく。

 プロレスファンの間で話題になったのは、全日本プロレスの諏訪魔に対して「お前はしょっぱい」と絡んでいたことだ。どんな意図があって諏訪魔選手へ絡んでいったのだろう。

 「全日本プロレスに上がりたいから絡んだわけではないです。単純にバカな諏訪魔さんがしょっぱいと思ったから『しょっぱい』と言っているだけです。純粋に(諏訪魔を)バカにしたかった。SNSで絡んでくるファンにも返信しますけど、僕はファンだからとかレスラーだからって括りはありません。単純に人として会話をしている。変なことを言ってくる人がいれば『ご飯食べた?』と返しますし、僕個人の考えもはっきりと言います。それでもわかってもらえない人は猪木さんじゃないけど『お前はそれでいいや』で終わりです」

 そして最後に同年代である氷河期世代へメッセージをお願いした。

 「氷河期世代は色々な可能性を潰されてきた世代だと思うんです。上の世代からはいい時代の話を聞かされてきましたけど、僕らが社会に出たら真逆だったじゃないですか。だから先輩の言う事は通用しなかった。上からやれと言われたことをやっても、違うと返されてしまう。だったら好き勝手やるのが一番いいじゃないですか。

 僕らの次の世代の人たちに、僕らが味わったような嫌な思いはさせたくない。正直、自分たちのところで劇的に全てをガラッと変えるのは難しい。でも、そのキッカケにはなれるんじゃないかな。

 あとは『何者かになろう』ってよく言うじゃないですか。例えば、野球選手とか僕のようなプロレスラーとかサッカー選手とかは、夢に出てくる夢の部分ですよね。でも実際なってみると『やっぱり何者でもない。社会の一部でしかない』とも思いました。

 世間的な立ち位置にこだわらず、自分で人生の楽しさを見つけることが幸せなんじゃないかな。お金をかけることが面白いと思えばそれやればいいし。僕なんかお金を使わない趣味の方が多いですが、それが楽しいと思うならやればいいと思います」

 物事を俯瞰した目で見てきた秀樹少年は、大人になっても変わらない。その目に映る世界は、きっと希望に満ち溢れたものではないだろう。とにかく自分自身を大切にして、やりたいことを「やればいいじゃん」。著書『捻くれ者の生き抜き方』の一節で本稿を締めくくりたい。

 

《「だったらやればいいじゃん」

 こういう考え方はカシンの影響ですね。IGFの試合の後に「あの時、ああすれば良かった」と言っていたんですよ。それを聞いていたカシンが「だったらやればいいじゃん」って。それからです。後でどうのこうの言うなら、その場でやっちゃう。

 やらないとゼロなんです。やれば良かったのかも、悪かったのかもわからない。

 だけどやればわかる。そこにリスクはあるんだけど、実はやらないリスクの方が大きい。

 

 これはフリーはもちろん一般の人にも言えることだと思います。》

 

(鈴木秀樹著『捻くれ者の生き抜き方』より引用)

 

 

文:篁五郎

 

写真:鈴木秀樹選手提供

 

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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