朝ドラ『虎に翼』で注目された帝人事件。人格を持つ「金」について　波多野聖著『悪魔の封印　眠る株券』を読む【緒形圭子】

「視点が変わる読書」第13回人格を持つ「金」『悪魔の封印　眠る株券』波多野聖

緒形圭子

教養・カルチャー真相・コラム連載 2024.06.18

写真＝PD-Japan-oldphoto／Wikimedia Commons

何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみましょう。あなたの人生が変わるきっかけになる「視点が変わる読書」。連載第13回は、波多野聖著『悪魔の封印　眠る株券』を紹介します。

「視点が変わる読書」第13回　　人格を持つ「金」

◾️朝ドラ『虎に翼』で注目された帝人事件

「朝ドラ」の愛称で親しまれるNHKの「連続テレビ小説」は1961年に始まった。第一作の『娘と私』の放映は月曜日から土曜日の朝8時から20分だったが、翌年には8時15分から15分となり、今と同じスタイルが確立した。

　朝の時間帯にしたのは、新聞の連載小説を意識してのことだったという。朝、朝刊で連載小説を読むように、ドラマを見るという感覚だったのだろう。とはいえ時代は高度経済成長真っただ中。勤め人の男性が8時15分から始まるドラマを見られるはずもなく、主な視聴者は主婦だったに違いない。

　ドラマのテーマが最初は「家族」、第六作の『おはなはん』から女性の成長物語となったのも、女性視聴者を意識してのことだろう。

　1964年生まれの私が朝ドラを意識したのは、1974年に放映された『鳩子の海』である。子役の斎藤こず恵が「にっぽんよ、にっぽん、わしらがお国、まだ守れるぞ、時間はあるぞ、どどんがどん♪」と歌うシーンは印象的だった。

　以来現在にいたるまで、もちろん見なくなった時期もあるけれど、朝8時という時間帯、我が家のテレビは大抵朝ドラが映し出されていた。

　番組が始まって半世紀以上が経つというのに、そのスタイルを保ち、最盛期に比べて落ちたとはいえ、他のドラマと比べ格段に高い視聴率を保ち続けているのは驚異的だ。テレビドラマは今やネットで好きな時間帯に見られる。それでも朝ドラのリアル視聴率が高いのは、朝ドラが日本の文化として定着していると言っていいかもしれない。

　今年の4月から放映が始まった『虎に翼』の主人公・猪爪寅子は日本で初めて女性弁護士になった三淵嘉子をモデルにしている。社会において男性が圧倒的に優位であった時代に、女性の社会的地位向上に尽力した女性の人生を描いているが、ドラマの中で共亜事件という疑獄事件が起きた。共亜紡績の株の贈賄に関わったとして政界、財界の主要人物が逮捕され、その中には帝都銀行の経理課長を務めていた寅子の父、猪爪直言も含まれていた。

　この事件は昭和9年に日本で起きた帝人事件が基になっている。

　ドラマで共亜事件の取り調べや裁判シーンが放映されるや、戦前に起きた帝人事件が俄かに脚光を浴び、ネットのトピックスの上位に躍り出たのを見て、朝ドラ恐るべし、と改めて思った。

　関連書籍も売れ始め、中でも注目されたのが帝人事件を小説にした『悪魔の封印　眠る株券』であった。

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