俄然注目のドラマ『燕は戻ってこない』 都会で暮らす地方出身者の貧困と〝代理出産〟の現実と心情【小林久乃】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

俄然注目のドラマ『燕は戻ってこない』 都会で暮らす地方出身者の貧困と〝代理出産〟の現実と心情【小林久乃】

女優・石橋静河

 

 最近、仕事であちこちの現場に出かけると「見てる?」と聞かれるのが『燕は戻ってこない』か、朝ドラ『虎に翼』(ともにN H K総合)だ。私が『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)という、テレビドラマに関する本を執筆したこともある“オタク”であることも、声がかかる理由だろう。それにしても声をかけられる率が高い。

  今回は『燕は戻ってこない』について、綴っていこうと思う。この作品の際立った主題は“代理出産”。ただその向こう側に見えた、現代を映し出す争点に触れていきたい。

 

◾️名優たちによる演技の掛け合い

 

 まずは『燕は戻ってこない』のあらすじからどうぞ。

 “北海道から上京、病院事務の派遣社員として働いていた大石理紀(石橋静河)は、貧困から都会の生活に苦しんでいた。そんな時に友人づてに聞いた、代理出産のプロジェクト。不妊に悩む家庭に自分の産んだ子どもを提供するだけで、高額な報酬がもらえるうえに、生活も保証される。理紀は元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻、悠子(内田有紀)と契約。直後に妊娠するものの、草桶の子である確証がない。不安の中、理紀の体内では双子が育っていた”

 約1時間の放送で心を奪われるのは、キャスティングの妙である。石橋静河が演じる、今までどこかに卑屈さを抱えて生きていた理紀の姿。何度も流産を重ねてしまい、愛する人の子どもを授かることができなかった草桶悠子を演じる、内田有紀。一見すると穏やかそうなのに、抱えた傷や決心の強さをジリジリとテレビ画面から感じさせる。

 どこか浮世離れしていて、子どもっぽい草桶基を演じる稲垣吾郎が素晴らしい。 

 「心配しなくても悠子は悠子だから、産めなかったからって劣るわけじゃない」

  女性が聞いたら一斉に「はあ?」とヤジを飛ばしそうなセリフも、さらっとこなすのはさすがだなあと見ていてニヤニヤしてしまう。そしてこの息子を産んだ草桶千味子を演じるのは、黒木瞳。彼女といえば『魔女の条件』(TBS系・1993年)、『恋を何年休んでますか』(TBS系・2001年)、『過保護のカホコ』(日本テレビ系・2017年)、『ファーストラヴ』(NHK総合・2020年)など、数々のドラマで毒母を演じてきたキャリアがある。あの年齢不詳の美しさ、強そうな性格から察すると、今の日本国内では最も毒母が似合う女優だ。今回も孫を抱くためにはなりふり構わない、千味子の業の深さを的確に表現している。

  名優たちのセッションを見ているだけでも価値があるドラマだ。

次のページドラマから浮き彫りになる貧困と格差社会のゆくえ

KEYWORDS:

オススメ記事

小林久乃

こばやし ひさの

コラムニスト、編集者

出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」(K Kベストセラーズ)にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社刊行)。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーションなどを業とする、正々堂々の独身。最新情報はhttps://hisano-kobayashi.themedia.jp

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

結婚してもしなくてもうるわしきかな人生
結婚してもしなくてもうるわしきかな人生
  • 小林 久乃
  • 2019.11.30
45cmの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について
45cmの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について
  • 小林 久乃
  • 2022.03.25
ベスト・オブ・平成ドラマ!
ベスト・オブ・平成ドラマ!
  • 小林久乃
  • 2022.12.16