残念ながら会社員のあなただってMC(マインドコントロール)されている! 本当の統一教会問題は、統一教会だけの問題ではない【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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残念ながら会社員のあなただってMC(マインドコントロール)されている! 本当の統一教会問題は、統一教会だけの問題ではない【仲正昌樹】

統一教会問題を、自分たちと関係のない話に矮小化しようとする人たち

 

◾️国立大学も企業も統一教会も組織なるものの本性とは?

 

 国立大学では、教授・准教授になる条件として、文科省の科研費(科学研究費助成事業)などの外部資金を獲得したか、査読付きの論文がどれだけあるか、国際学会での報告経験があるか、教歴何年かといったことについて、大学の幹部のチェックを受ける。分野によっては、基準をクリアしにくいところもあるが、個別の事情は聴いてもらえない。統一教会で、与えられた使命を果たすに当たっての信者の個別の事情は考慮されない。

 統一教会には、条件がきついので祝福を受けないでもいい、という態度を取り続ける自由はあった。国立大学の専任講師や助教はこのままの身分でいいという態度を貫く自由はある。いずれの場合も、周囲の視線から物凄いプレッシャーを感じ、ものすごくいづらくなる。自分より信仰歴が短い人が先に祝福を受けたり、自分より若い人が教授になって、追い越されると、人間関係がきまずくなる。気にしないふりをするには、かなりの精神力がいる。

 学部長によっては、厳しいことばかり言う学長の本当の「思い」を推し量り、それにすぐに応えることはできないが、みんなで協力し道を切り開くしかありません、と悲壮感を込めて語ることもある。多くの教員が絶望的な気分になるが、学長の片言隻句から読み取れる、「思い」に答えるべく何かしようとする真面目な教員もいる。伝えられる父母様の断片的な言葉を手がかりに、道を切り開こうとする統一教会信者のように。

 学部長、学類長などの役職に就いた責任者が、「学長の思いは」と言うたびに重苦しい雰囲気になる。個人のわがままは口にできない、言えば、教員コミュニティでの居場所を失う。決断式の前後の統一教会だ。

 こういう話を聞くと、それをカルトと言うのであれば、正直内の会社、学校、運動団体、劇団の方が遥かにカルト宗教的だと思う人も少なくないだろう。「お前は地獄行きだ」、と言われるより、「この苦境で責任を負っている〇〇さんの思いに応えて」と言われる方がずっと心理的圧が強い。統一教会問題は、統一教会だけの問題ではない。

 私は、メシアと教団にとって危機的状況を強調し、「この苦難の中での父母様の御苦労を思えば」という言葉で、いろんな無理な負担を信者が自発的に受け入れるように仕向ける、かつて私がいた頃のような統一教会の重苦しい雰囲気は二度とごめんだ。他人にも勧めない。

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KEYWORDS:

✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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