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〝不遇や障害〟を生き抜く価値に変えた戦国武将・山中鹿介 後世に評価され勝海舟に愛された理由【大竹稽】

障害があるままに自由になる 第3回 〜山中鹿介の障害〜


東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「こども禅大学」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏は、「障害」というテーマを哲学的に考察している。社会の趨勢を知る軸ともなる特別寄稿。第3回。


山中鹿介(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

 

 

 戦国武将好きサークルでは、名刺はほとんど役に立ちません。最大の自己紹介は「私の推しの武将」に尽きるでしょう。いやしくも戦国武将好きを公にしている人間たちは、「誰を推すか?」から交流が始まります。

 ここで教科書に登場する武将を推すことは、かなりスリリング。ハードルが劇的に高くなります。「織田信長が推しです!」「それはまた、なぜですか?」ここで教科書に書いてある通り一遍のことなど述べようなら「ああ、そのレベル」と無言のお返しが来てしまうかもしれません。

 さて、知名度はそこそこ(興味がない人にとっては全く知られていないレベル。しかし大ファンがいるという意味での「そこそこ」)の武将の一人として挙げられるのが、山中鹿介。独断を許してください。

 山中鹿介の名で親しまれていますが、山中幸盛が正式名称。中国地方で毛利氏と争った戦国大名、尼子氏に使えた一武将です。尼子の殿様は、後世の評価によれば、暗愚。いっぽう、鹿介は子どもの頃から麒麟児として認められるほどの、武芸教養に秀でた武将(しかも美丈夫!)だったようで、他の拠点がどんどん毛利軍によって攻略されていくなか、鹿介の陣営だけは勝ち続けたといいます。最終的には、尼子氏の本拠地である月山富田城は兵糧が尽きて降伏しますが、その後も、鹿介は尼子氏再生のために全力を尽くします。しかし、その努力もむなしく、三度目の失敗のときに謀殺されてしまったようです。

 さて、ここで誰もが持ちうる疑問が、これ。

 「なぜ、そんな殿様のために命をかけたの? 大物(例えば秀吉や光秀や信長)に仕える事もできただろうに」

 何度も主君を変え戦国時代を生き抜いた藤堂高虎とは、真反対の生き様です。

 勝海舟の随筆『氷川清話』に山中鹿介のことが次のように述懐されています。

「いわく、自分の気に入る歴史の武将はまったくいない。強いて挙げれば、山中鹿介と大石良雄である。鹿介は、凡庸な主君のために大望は果たせなかったが、それでも挫けず、倒れるまで戦った」

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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