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自閉スペクトラム症(ASD)と診断された5歳の娘に贈りたい 「徳川家康の遺訓」に込められた想い【大竹稽】

障害があるままに自由になる 第4回 〜徳川家康の障害〜


東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「こども禅大学」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏は、「障害」というテーマを哲学的に考察している。社会の趨勢を知る軸ともなる特別寄稿。第4回。


徳川家康(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

 

 「障害と自由」をテーマにしたコラムは、ここで4回目。今回は、三河生まれの私にとって、最も馴染んできた戦国武将に登場してもらいます。

 徳川家康です。

 天下布武を成し遂げた三傑の中では、どうやら一番の人気ナシのようですが、彼こそ「障害があるままに自由になる」ことを教えてくれた人物です。そして彼の生き様は、私の娘の「重荷」との付きあい方のヒントになっています。

 徳川家康の遺訓に「不自由を常と思えば不足なし」があります。全文を紹介しておきましょう。

「人の一生は重荷を負って遠き道を行くが如し。急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。心に望み起こらば困窮したる時を思ひ出すべし。堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思へ。勝事ばかり知りて、負くる事を知らざれば、害その身に至る。己を責めて人を責むるな。及ばざるは過ぎたるより勝れり」

 根本的に、私たちは不自由である。そもそも「自分は自由である」なんて思い込みこそが己を縛ってしまうのです。なんでもできるという先入主こそが、いつまでも埋まらない不足の穴を生んでしまうのです。

 禅の教えに、「自由」とともに引き合いに出される言葉があります。「任運」です。自分も他人もあるがままに受け入れることを意味します。絶対の受容です。

 この絶対性をしばしば人間は見損なってしまいますが、どうしようもなく避けられない絶対の受容があります。それが我が子です。

 私の娘は5歳の誕生日を迎えた3ヶ月後、今年の2月に「発達障害」の診断を受けました。自閉スペクトラム症、いわゆるASDです。

 その診断を受けた場所には、もう一人、お母さんがおられました。診断を受けたお母さんは、気も狂わんばかりに涙を流していました。そして妻も、その日は放心状態になってしまったそうです。

 いっぽうの私にとっては、「やっぱり!」が素直な気持ちでした。虫や花への興味、没頭する様子、マイペースにマイルール、「変わっている子だなぁ」という喜び。まるで自分を見ているようだったのです。得心しました。そして決意したのです。

 その場の私は、医師や心理士たちに向かって「ヨシ!ワクワクする!」と言い放っていました。ずいぶん仰天したことでしょう。

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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