カープのなかでもっとも優勝を願う男
野村謙二郎が聞いた黒田博樹の言葉
25年ぶりの優勝へ。カープの思いを背負う男たちの言葉。
■野村謙二郎が聞いた黒田の言葉
カープの勢いが止まらない。25年ぶりにマジックを点灯させても劣勢の展開を覆す劇的な勝利で、よりその「灯」を強くしている。四半世紀もの間、優勝から遠ざかったチーム何が起きたのか。そこに、昨シーズンからカープに復帰した一人の男の存在があることは疑いようもないだろう。
カープは今季、ふたつの大記録を目前にシーズンをスタートした。新井貴浩の通算2000安打、そして黒田博樹の日米通算200勝だ。新井貴浩は開幕からハイペースで安打を量産し、4月26日に見事に記録を達成。チームを勢いづける大きな出来事となった。
そして後半戦、黒田の大記録がチームにさらなる勢いを与えた。引退すら考えた男がなぜ、こうもカープのためにマウンドに立ち続けるのかーー。
その思いをカープ前監督の野村謙二郎氏が語ったことがある。野村氏と黒田は現役時代をともに、チームリーダーとエースという立場でプレーした戦友だ。そして、その思いを野村氏は著書『変わるしかなかった。』に記した。
「彼の復帰に関しては個人的に多少予感していた。クロ(黒田)が海を渡って以降、選手時代も監督時代も僕は彼とやりとりを続けていた。メールをしたり電話をしたり、帰国しているときには一緒に食事に行ったりした」
カープの監督時代も、野村氏はメジャーリーグに渡った黒田と頻繁に連絡を取り合っていた。そんな関係性の中である日、黒田のある思いを知ることになった。
「2014年12月10日、僕は広島でクロと食事していた。そのとき僕は、「どうなんだ、帰ってくるのか?」と訊いたのだが、彼は「迷ってます」と言っていた。クロは2014年シーズン、ニューヨーク・ヤンキースと契約を結ぶときも相当悩んでいた。体力の衰えを感じ、現役引退という決断もかなり現実味を帯びたものとしてあったという」
そして野村氏と黒田の会話の中で、カープ復帰を感じさせる発言がついに出てきた。
「彼の口から、『日本だったら中5日、中6日で試合に臨めるし、身体も万全に整えられるし……』というセリフが出てきたとき、僕はオヤッ? と思った。続けて、『僕、今回スーツを持って帰ってきたんです』とクロは言った。『なんでスーツがいるんだ?』と尋ねると、『日本で契約することも考えて……』と。彼はいくつかのメジャー球団からオファーが届いていることも口にした。『そうか、悩むところだな……俺としてはもちろん帰ってきてほしいけど、金額が金額だけに無責任なことは言えないよ。でも、もしお前が戻ってくるという決断をしたら、日本ではすごい賞賛を受けるだろうし、アメリカでも話題になるだろうな』『そんなことはどうでもいいんです。僕は気持ちよく送り出してもらった人間なんで、最後はチームに恩返しをしたい、それだけなんです……』(黒田)話をしながら、僕の中でしびれるような感覚が広がっていた」
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