ビールビールビール!【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ビールビールビール!【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」《番外編》

 

 今でこそ罪悪感もなく昼ビールを飲む私だが、会社員時代はさすがに遠慮していた。ただし、日が沈めば解禁だ。といっても、晩酌で一杯なんていう優雅な話じゃない。当時は月刊誌の編集部にいて連日の残業、入稿~校了時期は毎月3日徹夜というのがルーティンだった。まだ20代で体力もあったとはいえ、徹夜続きはやっぱりきつい。

 蓄積した疲労で重だるくなった体をひきずり、深夜の食事に出る。よく行ったのは会社の向かいにあった中華屋だ。眠気覚ましに担々麵とか麻婆丼とか、ピリ辛系を選びがち。そこで景気づけというかカンフル剤として注入するのがビールである。

 徹夜で疲れてるところにビールなんか飲んだら眠くなるだろ、というのは素人の考え。私のようなプロ(何の?)になると、リポビタンDよりビールのほうが元気が出るのだ。ただし、あくまでも一時しのぎなので、数時間後にはガクッとくる。それでも飲まなきゃやってられないぐらいきつかったのであった。

 あれから数十年が過ぎ、今はもう徹夜なんてしないしできない。でも、ビールは変わらず好きだ。たまに小洒落たビストロとかに行くとスパークリングに浮気することもあるが、一杯目は基本的にビールである。飲み会でも(ビールが苦手だったり下戸だったりする人は別として)「とりあえずビール」が日本の常識だろう。

 ところが先日、とあるパーティ(よくある立食形式のやつ)でウェイターさんが持ってきたウェルカムドリンクにビールがなかった。お盆に載っていたのは冷たい緑茶とウーロン茶と赤ワインだけ。「え?」と思っていたら、隣にいた大学教授の某氏が「ビールはないんですか?」と私の気持ちを代弁してくれた。

 しかし、ウェイターさんの返事は「本日はビールはご用意ありません」。今度は「えーっ!?」と口に出してしまった。パーティでビールがないって、そんなことある? シャンパンでもあればまだしも、緑茶かウーロン茶か赤ワインって選択肢はおかしいだろ。のども乾いていたし、しょうがないからとりあえず緑茶を選んだが、心の中ではずっと「ビールビールビールビールビールビールくれ!」と唱えていた。

 いくらなんでも酒が赤ワインだけってことはないだろうと思ってドリンクコーナーに行ってみたら、冷えた白ワインがあったので、もっぱらそれを飲み続ける。それでも釈然としない気持ちは収まらず、知り合いを見つけては「ビールないっておかしくないですか?」と言い続けた。

 パーティ自体は、久しぶりの人や初めての人とお話しできて楽しかった。が、なぜビールがなかったのかについては、いまだに疑問に思っている。

 

文:新保信長

 

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新保信長 著『食堂生まれ、外食育ち

 

 

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「気配をスッと消し、食の現場をニヤリと斬る。

選ばしし外食者の至芸がすごい。」

 

外食歴50年超の著者が綴る異色の外食エッセイ!
一口に「外食」と言っても、いろんなシチュエーションがある。子供の頃に親に連れていかれたデパートの大食堂。夜遅く仕事帰りに一人で入る牛丼屋。ここぞというデートや記念日に予約して行ったレストラン。気の置けない仲間と行く居酒屋。たまの贅沢のカウンターの寿司屋。出先でたまたま入った定食屋。近所のなじみの中華屋や焼き鳥屋……。
誰もが心当たりあるような懐かしくも愛しき「外食の時空間」への旅が始まる!

カバー&本文イラスト描いたイラストレーターおくやまゆかさん。

イラストが最高に愉快!(全50点収録)

 

目次

序 「今日のごはん何?」と聞いたことがない

 

第1章 ノスタルジア食堂

1品目|外国人と鴨南蛮と中華そば
2品目|ランチタイム地獄変
3品目|「天丼」と「うどん天」と「シマ」
4品目|出前とデリバリー今昔物語
5品目|おでん定食というギャンブル
6品目|ハンバーグ記念日
7品目|おいしい味噌汁の条件
8品目|最高のおやつ
9品目|校外学舎の悲しき夕食
10品目|わんこスイカ
11品目|ところ変われば品変わる
12品目|「恵方巻」と「丸かぶり」
13品目|ちくわぶとはんぺん
14品目|「肉じゃが=おふくろの味」って誰が決めた?
15品目|スマホがなかった時代
16品目|Gに気をつけろ!

 

第2章 私が通りすぎた店

17品目|あの素晴らしい寿司屋をもう一度
18品目|気まぐれすぎる女将
19品目|選択肢のない店
20品目|日本一大きいビアガーデン
21品目|カニ・マイ・ラブ
22品目|国会図書館でナポリタンを
23品目|夫婦の肖像
24品目|サハリンの夜
25品目|インドで大炎上
26品目|開幕前の至福の宴
27品目|私がスポーツジムに通う理由
28品目|かわいそうな寿司屋とその弟子
29品目|残業メシ格差
30品目|よそンちの食卓はつらいよ
31品目|大食いと早食い
32品目| BGMも味のうち?

 

第3章 外食の流儀

33品目|大盛りはうれしくない
34品目|取り皿問題
35品目|デザート嫌い
36品目|お熱いのはお好き?
37品目|器のTPO
38品目|あんまり尽くされても困る
39品目|スパゲティがパスタに変わった日
40品目|何をかけるか問題
41品目|どの席に座るか問題
42品目|酒飲み認定
43品目|11人きた!
44品目|硬と軟
45品目|人はだいたい同じものを注文する
46品目|トングどっち向きに置く?
47品目|箸と愛国
48品目|ステキなタイミング
おわりに 入れなかったあの店の話

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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  • 新保信長
  • 2024.07.05