「私のなかにブタがいる」
「太るくらいなら死んだほうがマシ」
そんな悲鳴をあげる女性たちの瘦せ願望とは。
摂食障害になった女性たちとの30年余りの交流の軌跡が話題に!
「男は死にたくないから瘦せたいと思い、女は死んでもいいから瘦せようと思う」
この「死んでもいいから」を地でいってしまうのが瘦せ姫であり、摂食障害が「緩慢なる自殺」などともいわれるゆえんです。
なぜ現代の女性は「細さ」にこだわるのか。
そして、瘦せられる理由、瘦せられない理由とは。
健康至上主義的現代の奇書にして、食と性が大混乱をきたした新たな時代のバイブルとしていま話題の書『瘦せ姫 生きづらさの果てに』の著者・エフ=宝泉薫氏がそんな瘦せ姫との交流を通して見えた、現代女性の生きづらさの正体を紐解く——。
「私のなかにブタがいる」
「私のなかにブタがいる」
ある瘦せ姫はブログにそう書きました。そのあとは、こう続きます。
「体脂肪率5パーセントを切った今も、ブタは死んでくれないの」
多くの人はおわかりでしょうが、一般人、とくに女性がそのような体脂肪率になることは滅多にありません。その証拠に、市販の体重・体組成計では5パーセント以下になるとエラー表示になったりします。厚生労働省によれば、成人女子の標準体脂肪率は25パーセント。また、これが12パーセント以下になると生理が停止するともいわれています。
実際、そのときの彼女の身長・体重は、150センチ台後半で30キロちょっとというもの。肥満度の判定に用いられるBMIでは12~13となり、日本肥満学会が標準と定める18・5~25という範囲を大きく下回っています。つまり、彼女は明らかに瘦せているにもかかわらず、自分では太っていると感じているわけです。ブログでこの言葉に出会ったとき、瘦せ姫ならではの感覚が如実に表現されていることに、ハッとさせられました。
というのも、この感覚は専門家から「ボディイメージの歪(ゆが)み」などといわれ、摂食障害の特徴ともされています。これを巧みに表現したのが、ある海外の摂食障害啓発CMでした。その内容はまず、鏡に太った下着姿の女性が映され、そこからカメラが後ろにひいていくと、鏡を見ている女性はじつはガリガリに瘦せている、というもの。日本でもネットなどで紹介され、話題になったものです。
ただ、こういうCMを見せられたくらいで、医学的に健全とされるボディイメージに変化する人はまれでしょう。それくらい、瘦せ姫の瘦せ願望は根深いものなのです。
たとえば、ダイエットについて、こんなことを言った男性有名人(註1)がいます。
「男は死にたくないから瘦せたいと思い、女は死んでもいいから瘦せようと思う」
この「死んでもいいから」を地でいってしまうのが瘦せ姫であり、摂食障害が「緩慢なる自殺」などともいわれるゆえんです。何せ、BMIがひとケタ(身長160センチなら体重25・6キロ以下)となり、治療者にこのままでは死ぬと脅されても「太るくらいなら死んだほうがマシ」だと答える人も少なくないのですから。
こうした瘦せ願望は「私のなかにブタがいる」という感覚をはじめ、さまざまな要因によって複合的に生じているのでしょう。それゆえに、瘦せ姫は自らを追い込み、世間一般からかけ離れたあの哀しくも美しい体型へと到達します。それは心身ともに、極めて苛酷な状況を強いられることでもあるわけですが……。
その一方で、こんな考え方もできます。人間はいつも、意識的あるいは無意識的に自分のしたい生き方を選びとってしまうもの、瘦せ姫にもそれは当てはまるのではないか、と。では、なぜ、彼女たちはそういう生き方を選びとってしまうのでしょう。
ある人はブログにこう書きます。
「気持ち悪がられてもいい。瘦せていることだけが、私の誇れること。突き出た骨は唯一の誇りだから」
また、ある人はブログにこう書きます。
「このまま落ちていくと、また20キロ台になる。でも、それくらいの体重のときが一番安心していられるんだよね」
そして、ある人は50キロ近くの体重が20キロ余りに減っていく途中、自分が摂食障害になっていることに気づき、そのデメリットをブログに羅列しました。いわく、食事への恐怖感、体力の低下、強迫的な過活動、生理の停止、手足の冷え、体毛の増加、など……。しかし、彼女はこう続けます。
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