「なぜ新任教師は命を絶ったのか」残業や叱責が原因? 〝学校現場の問題〟は社会の鏡である【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「なぜ新任教師は命を絶ったのか」残業や叱責が原因? 〝学校現場の問題〟は社会の鏡である【西岡正樹】

 

■私が本音で助言した同僚の教師は翌日学校を休んだ

 

 数年前になりますが、「私の授業を西岡先生に観ていただいて、西岡先生の思い考えをお聞きしたいのですが、宜しいですか」そんな話が後輩のA先生からありました。自分のペースを守り、同時に自分のスタイルを貫きながら授業をしているA先生の日常からは、想像できない突然の要請でしたが、善は急げ、です。その日の放課後、私とA先生は職員室で長い時間話をしました。

 私は、A先生の授業を観て感じたこと、思い考えたことを素直に話しました。その内容はA先生にとって耳当たりの良い話ばかりではありません。それは当然のことです。しかし、「A先生は見かけや行動に反してとても繊細な人だ」と私は思っていたので、A先生にとって耳当たりの良くない事は、言葉を選んで丁寧に話をしたつもりでした。

 次の日、A先生は学校を休みました。しかし、私はA先生が休んだことと昨日私とA先生が話をしたことを結びつけることはありませんでした。私は自分の思いや考えを素直に話しましたが、話し終わった時のA先生の様子は、けっして否定的なものではなかったからです。

 ところが、しばらく時間が経過したある日、思わぬ情報が私の元に飛び込んできたのです。

 「A先生が休んだのは西岡先生の話にショックを受けたから、のようですよ」

 その情報に私は心底驚きました。

 「えーっ、それはないでしょう」

 思わず言葉が出るほどのびっくりでした。

  しかし、今思い返し本音を言えば、(A先生にも伝わっていたと思うのですが)、私は「A先生の授業を変えなければならない」と強く思っていたのです。A先生の思いや考えを聞けば聞くほど、今のままの授業では子どもたちには「ゲーム感」しか残らないし、授業内容が子どもたちに伝わらないと判断したからです。それでも、「言葉は伝わらなければ意味がない」と私は思っているので、私は言葉を選びA先生に自分の思いや考えを伝えました。ところが、私の強い思い(エゴ)が込められた私の言葉は、結果的には、A先生にとって耐えきれるものではなかったのです。

 A先生は休むという行為(エゴ)で自分の思いを表現しました。ところが、私と話をしている時にはA先生が休むという選択肢を持っているなどと微塵も感じませんでした。A先生の休みと私の言動が繋がっているのであれば、A先生は私に自分の言葉(エゴ)をぶつけるべきでした。無批判に私の言葉を受け取るべきではなかったのです。それは同じ学校に勤める者同士にとって必須です。今、教師たちは自分の言葉を失いつつあります。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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