リオ五輪感動の影で女子アスリートたちがぶちあたる「生理は敵」の世界…フェアリージャパンも例外ではなかった
摂食障害になった女性たちとの30年余りの交流の軌跡が話題に!
その後、陸上競技の表舞台で、彼女のことを見たり聞いたりした覚えはありません。が、体は折れてもなお、折れなかった心をずっと持ち続け、幸せをつかめていることを期待したいものです。
ところで、疲労骨折については発症の年齢的ピークが16歳であることから、こんな提言をする医師もいます(註3)。
「選手たちには〝どこがあなたにとってのゴールなのか?〟と聞くのです。ジュニアの全国大会で優勝して終わりなのか、もっとその先まで続けたいのかと。競技を長く続けていくためには、今からしっかり食べて生理が来て、折れない骨を作って体づくりをしてから、プロを目指した方がいいという話をするんです」
ただ、競技によっては10代半ばがまさに旬である場合もありますし、そうでなくとも、伸び盛りではあるでしょう。本人も指導者も、のんびりとはしていられないはずです。
とまあ、苛酷な戦いを強いられることも多い瘦せ姫アスリートたち。しかし、交流してきたなかにはこんなことを言った人もいます。
「陸上の世界は私にとって、居心地のいいものでした。もともと、女性らしい体になるのがイヤで、生理もストレスだったし、恋愛にも興味がなかったので。瘦せることをほめられ、速く走ることだけに集中していられることが楽しかったんです」
もちろん、多くの女性アスリートは、出産という女性にしかできない経験をしたいと願っていることでしょう。実際、マラソンの土佐礼子のように、12年もの無月経期間がありながら2児の母となった人もいます。駅伝や1万メートルで活躍した田村有紀のように、拒食症で競技生活を中断したりしながら、母となり、その娘が同じジャンルの陸上選手になった例もあります。女性であることとアスリートであることの両立は、ある程度可能なわけです。
が、その一方で、女性よりもアスリートとしての生き方を優先させる人がいても、悪くはないと思います。というのも、それくらい、女性がスポーツを極めるのは大変なことなのですから。
たとえば、マラソンの福士加代子が約1ヶ月という短い間隔で大会に出場しようとしたとき、元選手の立場から反対した松野明美はこんなことを言いました。
「大会でのフルマラソンは、出産と同じくらい体力を消耗するんです」
だとしたら、マラソンも出産もというのは、ちょっと欲張りなことなのかもしれません。マラソンに限らず、生理を犠牲にするような競技は、女性らしさを少し捨てるくらいの覚悟がないと、大成しづらいという側面もありそうです。
女子スポーツがこれだけ盛んになってきた以上、瘦せ姫アスリートもまだまだ増えていくことでしょう。母となることが絶対的な幸せではないと考える人も多くなった今、女性の生き方の多様性を彼女たちは示しているわけです。
(註1)『クローズアップ現代』2014年4月15日放送(NHK総合)
(註2・3)「特別読物 生理は止まる! 骨密度は老人並み! 美談ですまない『女性アスリート』過酷の日々」歌代幸子『週刊新潮』2015年11月26日号(新潮社)
(つづく……。※『瘦せ姫 生きづらさの果てに』本文抜粋)
【著者プロフィール】
エフ=宝泉薫(えふ=ほうせん・かおる)
1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』などに執筆する。また健康雑誌『FYTTE』で女性のダイエット、摂食障害に関する企画、取材に取り組み、1995年に『ドキュメント摂食障害—明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版。2007年からSNSでの執筆も開始し、現在、ブログ『痩せ姫の光と影』(http://ameblo.jp/fuji507/)などを更新中。