Scene.40 本屋から、詩人の詩が流れることもある!
高円寺文庫センター物語㊵
例によって、四丁目カフェでのバイトくん達との企画会議に「銭湯でイベントするからにはさ、最後はお客さんたちとも一緒にお風呂に入るっていうのはどう?!」と言ったら、悪乗りは即座に却下されてしまった。さわっちょはともかく、りえ蔵も内山くんも意外に常識人でやんの!
各家庭にお風呂が当たり前となっても、高円寺には風呂なしアパート住まいの住人が少なからずいたので、この企画はイケるんじゃないかと思った。
題して「町田忍・銭湯トークショー」。
日本の庶民文化、なかでも銭湯研究においては第一人者といわれる方である。リスペクトしてやまない写真集「THE 霊柩車」では、井上章一さんの文章に貴重な写真の数々で携わっておられた。
「霊柩車と銭湯とフーゾクは、極楽への入り口」と語られる、庶民文化研究所所長の町田さんはアイドル!
この企画が実現したのには、杉並区政70周年記念事業。「そうだ。銭湯に行こう」があった。
いまも手元にそのNPO企画書があるのだが、このイベントの主催は「NPO ライフスポット杉並 事務局」会場提供の銭湯、並の湯さんと文庫センターは「協力」であり、後援が杉並区だったのである。
なんといっても、その「目的」は「地域の福祉・生活情報拠点として、銭湯の新しい活用を提案する」という、行政の仰々しいお墨付きだった。
後援の杉並区さん、すいません。当日は、そんなことコロッと忘れて町田さんのお話に聞き入っていました。
銭湯といえば、富士山が描かれたペンキ絵は関東独自のモノ。入口のお城や寺社仏閣を想わせる唐破風の屋根は、極楽浄土へ誘う意匠としてシンボリックな装置としてあった。
等などと、町田ワールド全開!
興味深いお話の連続に、波の湯さんの番台のある脱衣場を埋め尽くしたお客さんは熱心に聞き入ってくれていた!
圧倒的に若い方々に交じって、お年を召した方々が散見されるのは並の湯の常連さんであるのだろうか。
共に年々、消えゆく街の本屋と銭湯がコラボしたイベントは、街に根差した本屋と銭湯だからこそ出来たと記憶に鮮やかに甦る。
このイベントでもアンケートをしたと思うのだが、それが残っていないのが残念。ただし。いいモノが手元にある!
お客さんの出入りが、わかりやすいように入場券は缶バッチ。文庫センターの得意技、デザインはひと文字「ゆ」。
年明け早々に連ちゃんでイベントが入ったら、2月3月4月とまったくイベントの音沙汰がない。
さすがにテンションダウンの「カリスマ店長」に、パワーを注入してくれていたのはメジャーリーグでの松井秀喜選手の大活躍だった!
メジャーデビューのオープン戦で、いきなりのホームラン。ヤンキースのホーム開幕戦では、3打席目にグランドスラムと気分爽快でご機嫌。
星稜高校から大変なスラッガーが出てきたもんだ、と思ったが。野球ファンとしてよりも、ヒーロー的な活躍に魂の救済を求めて自己を投影していたのかも知れない。人間、不安を抱えると神=その代替にすがりたくなる弱い存在でしかないと思う。併せて、自分より冷遇された対象を見つけることで己の安心を得ようとするものだと思った。
実体験は書泉長期争議中のこと、本屋のバイトに入る前の清掃業務の仕事であった。窓拭きに大手企業に出入りもしたが、警備員や守衛が見下してくること甚だしい!
そういえば、零細出版社から中堅出版社に転職した営業マンへの酷いバッシングが聞こえてきたことがあった。まるで芥川龍之介の『蜘蛛の糸』ではないか、ひとの足を引っ張るのは止めなよ!
どこに行っても、終身雇用なんてないよ。この世界は本屋も出版社も、一寸先は闇なんだから・・・・などと。取材に来た、マガジンハウスの雑誌「BRUTUS」の編集者に話し続けていた。
「出版社も玉石混交。同じように夜を迎えて、明けない夜はないと言っても夜明けが晴れとは限らないですもんね。
それに島国根性丸出しの差別発言は恥ずかしいですよ。いまやインターネットで世界はこの国を見ていますから」
「わお!
マガジンハウスさんは、さすがに含蓄あること言うな」
「契約なんですけどね・・・・」
「ゲゲゲ!
そっか、『ダカーポ』の編集さんもだったけど。厳しいね」