『エジプトの国家エージェント 小池百合子』を『カイロ大学』の続編として読むことで、浅川劇場を堪能する【中田考】
浅川氏は、カイロ大の学風を「闘争と混乱」、乱世に強いことがカイロ大学出身者の共通点である、と喝破しています。その上で、混沌とした現代社会では、理路整然を至高の価値とするエリート主義はなんの役にも立たず、カイロ大学の混沌の中で学ぶのが一番の近道である、と浅川氏は言います。そしてその格好の例として、カイロ大での闘争の中で「混乱」を自らの内に仕込んでいるため都政や国政をいくら混乱させても平然としていられる小池氏を挙げているのです。
『カイロ大学』(ベスト新書)が出版された2017年、1月にバラク・オバマに替わってドナルド・トランプがアメリカの大統領に就任しました。実は浅川氏は、2016年の大統領選挙で世界の大方の予想を裏切ってトランプが勝利することを予言していた世界でも数少ないジャーナリストの一人でした。(注4)
浅川氏は『カイロ大学』執筆時点で、トランプ大統領が引き起こす世界の闘争、混乱、混沌を予想し、その動乱の時代に求められるのが、動乱をものともせず、むしろ動乱の中でこそ生き生きと輝き力を発揮する自分と同じカイロ大学出身の先輩の小池百合子のような〝梟雄〟であることを悟っていたのでしょう。
そして2021年8月15日のアフガニスタンからの米軍の撤退とタリバンの復権を嚆矢として、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻、2023年10月7日のガザ戦争勃発、2024年6月の欧州議会選挙での極右の伸長、そして11月に行われるアメリカ大統領選挙「もしトラ」をめぐる未曽有の大混乱と、坂道を転げ落ちるように世界は闘争と混乱、混沌の渦に巻き込まれつつあります。
そうであれば、小池百合子をアラブ諜報世界の黒幕の子飼いのエージェントで、エジプトと内通し、東京で手にした巨大な利権を資金源に、アラブの大国エジプトが世界に仕掛ける認知戦に日本を巻き込んで参戦する、という読者を思わずゾクゾクする陰謀論に引き込むおどろおどろしいシナリオも、世界が欧米(+日本)対グローバルサウスに分断され、いつ第三次世界大戦に転化してもおかしくない狐とタヌキのバカし合いの敵味方が入り混じった認知戦、闘争、混乱、混沌の時代を迎えつつあるとの現実に目覚めさせるための道具立てであることになります。
そしてその上で、悪辣な中国、ロシア、朝鮮、インド、欧米の野望が複雑に交差する闘争、混乱、混沌の時代に、これらの国々と対等に渡り合って日本人を守ってくれるのは、汚職と不正に塗れた政治家同士の蟲毒のような醜怪な権力闘争をなりふり構わず勝ち抜いてきた「世界最強のカイロ大学の乱世に強い卒業生である」小池百合子しかないのでは、と読者に思い込ませることができれば、浅川劇場は大成功ということになる。私にはそう思えてなりません。
(注4)浅川芳裕『ドナルド・トランプ 黒の説得術』(東京堂出版:2016年10月26日)、及び以下のその書評参照。 トランプが大統領候補になる前、著者はトランプの演説や討論会をくまなく見ていった結果、「トランプは『話術』のとんでもない達人であり、『説得術』のとてつもない天才である。(略)彼が駆使する技術があまりも自然で、巧み過ぎ、誰もその凄さに気づけないぐらいのレベルに達しているのだ」と分かったという。大方の予想に反して共和党予備選を勝ち上がる。しかもダントツで。 トランプは共和党の歴史上、最も人気を獲得した大統領である。トランプの凄さは、演説の達人・オバマの話術と比較すれば分かる。オバマは説得力で感動させ、聞き手に影響を与える。トランプの話はバカげていて、説得力があるとは思えない。感動できない。にもかかわらず、無意識のうちに聞き手の心に忍び込んでいき、気がついたときにはトランプの虜になってしまう、らしい。(柴田忠男「【書評】米国民が納得も感動もできぬトランプの演説に熱狂する訳」2020年05月26日付『MAG2NEWS』)
文:中田考