暴走専務・諏訪魔のプロレス哲学と原点回帰 いつまでも「真っ直ぐ」「がむしゃら」に生きる【篁五郎】
◾️全日本プロレスを離脱した師匠・武藤敬司についていかなった理由
ヒールレスラーとしてトップへと駆け上がっていった諏訪魔は、2008年に「VOODOO-MURDERS(ブードゥー–マーダーズ)」を離脱。同年に開かれた全日本プロレス「春の祭典」と呼ばれる「チャンピオンカーニバル」で初優勝。その勢いを駆って三冠ヘビー級王座にも輝く。デビューから3年5カ月で全日本プロレスの頂点へと上り詰めた。
その後は全日本プロレスのトップとして武藤や小島以外のレスラーとも激闘を繰り広げる。
「あの当時ガンガンやり合った選手からも色々と学びました。一番インパクトに残っているのは佐々木健介さん。毎試合ボコボコにされて、顎の骨も折られて。そんな感じで厳しくしていただいた。それでも気持ちを前に、気持ちを折れずに戦っていかなきゃいけないってことを学ばせていただきました。川田さんもそう。デビュー当時は雲の上の人でしたから視界にも入ってなかったでしょうけど、頭がパンってなっちゃうくらいのもらってました」
名実ともに全日本プロレスのトップに立った諏訪魔に大きな試練が訪れた。
師匠・武藤が連れてきた起業家・白石伸生氏が、全日本プロレスの株を全部取得してオーナーに就任してから風景が変わったからだ。彼は選手に資金面でバックアップすると宣言するも、個別に課題を与え「フリーの選手もちゃんとプロレスができない選手は契約を更新しない」と断言する「物言うオーナー」であった。発言も過激で、業界トップの新日本プロレスに「1年で追いつく」と宣戦布告。その結果として、当時友好的であった新日本プロレスとの関係にもヒビが入り、業界からも批判的な声が飛ぶ。しかも白石氏を全日本に連れてきた武藤とも対立するようになった。
2013年に社長を務めていた内田雅之氏が退任し、白石氏が新社長に就任すると取締役会長だった武藤が全日本プロレスを退団。武藤を慕う多くの所属選手が後を追って退団し、全日本プロレスが分裂する騒ぎへと発展した。
騒動の最中に注目されたのが諏訪魔の動向である。諏訪魔は武藤敬司に育てられたレスラーであり、当時も全日本プロレスのエースであった。彼が武藤に付いていけば、全日本プロレスは潰れると言われていたが、いち早く残留を表明。武藤体制最後の大会ではメインイベントを務め、見事勝利を飾った。試合後には以下のようなコメントを残している。
「もうできる限りのことをみんなでやるしかない。俺一人で頑張ったってタカが知れてますからね。この三冠のベルトはみんなのものだと思っているし、まずはお客さまとの、ファンとの信頼関係ですね。それをもう一回築く。そこからスタートしたいです。またもう一回『明るく、楽しく、激しく』。原点回帰じゃないですけれど。時代を戻すことは嫌いですけれど、でももう一回見直してから、次の1歩を踏み出してもいいんじゃないかと思います」
どうして諏訪魔は全日本プロレスへ残留をしたのだろうか。
「全日本プロレスっていうのが大好きだったんですよ。やっぱり小さい頃から見ていたじゃないですか。でも、武藤さんにも育ててもらった恩もあるんですよ。色んなプロレス哲学とかを学んだ恩師ですからね。すっごい悩みましたけど、自分の好きなところでやりたいなって思って残留しました」
全日本プロレスが好きだから残った。
真っすぐに進んできた諏訪魔らしい理由である。大好きな場所でプロレスをやりたいからこそ、諏訪魔は変わった。全日本プロレスを残していくためにどうしたらいいのかという目線に変わったという。
「一選手だったら見えなかったものが見えてくるようになりましたね。プロレスってリング以外でも色んな人が関わっているじゃないですか。広報もそうだし、色々役割があって、彼らのやっていることが理解できたっていうところは大きいですね」
リング上のファイトは変わったのだろうか。
「そこは全然変わらないです(笑)。一時期確実なプロレスをちょっとやってみようかなと思った時期もあったけど、それじゃ面白くねえんですよね。お客さんに伝わんねえし。結局エキサイトしてる方がお客さん喜ぶから今までのままです」
全日本プロレスは。2014年に秋山準が社長に就任し、諏訪魔も専務取締役となる新体制を発足。諏訪魔は約1年で専務を辞任するも“暴走専務”と呼ばれ、リング内外で活躍をしてきた。武藤時代よりも会社の規模は小さくなり、所属選手も少なくなっていたが不安はなかったのだろうか。
「本当になんとかなるだろうという一心だけだったんですよね。何も知らないクソガキが」
コロナ禍真っ只中の2021年に再び専務執行役員に就任し、リングとフロントとの架け橋となった諏訪魔は、再び全日本プロレスの復活へ向け、暴走専務として走り回っている。これからの全日本プロレスのリング上について話を聞いてみた。
「毎日必死にやってます。来てくれたお客さんを少しでも喜ばせるような戦いを見せられるように真っ直ぐやるしかないですよ」