暴走専務・諏訪魔のプロレス哲学と原点回帰 いつまでも「真っ直ぐ」「がむしゃら」に生きる【篁五郎】
◾️暴走専務のもう一つの顔「保護司」、そして父親
リング上では暴走ファイトを見せる諏訪魔にはもう一つの顔がある。それは「保護司」の活動をしている姿だ。現役のプロレスラーが別の顔を持つのは珍しくない。しかし保護司をしているのは諏訪魔だけだろう。
「きっかけは俺の後援会である「諏訪魔會」の会長さんが藤沢市の保護司会の会長をしていたからです。その人に誘われて、最初は「保護司って何だろう?って、そこからのスタートです。色々話を聞いて、それで俺にできることあるかなと思って始めたんです」
保護司とは犯罪や非行をした人の更生のために、現在も数人の対象者と面会を行っている人たちのことを言う。報酬はなし。完全ボランティアで行っている。諏訪魔は、忙しい合間を縫って犯罪や非行をした人を社会復帰させ、地域の犯罪や非行の予防を図る活動を続けている。
「自分が担当している人は若い人が多いんです。だから若者の考え方を知ることができたのは自分でも良かったなと思います。本当に普通の若い子なんですよ。たまたま過ちを犯してしまっただけで。俺もプロレスやってきて多少過ちはあるんですよ。マイク投げちゃったりとか、相手を怪我させちゃったりとか。それってすごく辛いと思うんですよ。やられる方はもちろんですけど、やる方も辛い。でも、(犯罪をしてしまった)きっかけは絶対にあるだろうしね」
保護司としても地元藤沢を中心に活動を続けており、2023年2月には横浜刑務所主催の「横浜みなとみらい矯正展」でトークイベントを開催。プロレスラーとしての生い立ちや保護司の活動を説明した。イベントでは、再犯防止推進活動に尽力したことが評価され、感謝状を贈呈されるほど熱心に取り組んでいる。
保護司といえば、2024年5月に滋賀県で担当していた保護観察中の男に殺害される事件が起き、思わぬ形で世間の注目を浴びた。ボランティアなのでなり手も少ないそうだ。40代の諏訪魔が若手の部類に入るほど高齢化しているという。
「俺が保護司で面倒見てる若い人は、今でも頑張ってるんですよ。彼らの姿とか見てるとやっぱり刺激になりますし、俺自身もすごく嬉しい。たまに連絡くれることもありますから『彼も頑張っているんだな。俺も頑張ろう』と思いますよね。これからも保護司として対象者に寄り添っていきたいですね」
諏訪魔のもう一つの顔が父親としての顔だ。長男は筑波大学サッカー部に所属し、来年J1リーグの横浜Fマリノスに入団が内定している諏訪間幸成だ。2022年に世代別代表にも選出され、23年3月にウズベキスタンで行われたU-20アジア杯に出場。186cm、85kgと父親譲りの体格を駆使した、対人プレーの強さが武器だ。息子の教育について父として何かアドバイスはしたのだろうか。
「俺はサッカーやってないから何も口出ししてないです。ただ、俺自身もそうだったけど色々とやらせてもらったから『やりたいことやれよ』とは言っています。やっぱり人って、向き不向きがあるんで。俺は小学校の時から野球やっていたけどレギュラー取れなかった。でも柔道やったら半年とか1年位でどんどん強くなっていったから、色んなことをやらせてみるのがいいんじゃないですか。色々やってみて、向いてるものを見つけて、それが好きなものなのかどうか。好きになれるかどうか。あとはもう一生懸命やり続ける。やり続けた奴が勝つんじゃないのっていう感じですよ」
最後に同年代である氷河期世代へ向けてのメッセージを聞いてみた。
「多分非正規雇用が多かったりとか、いろいろ就職だったりとかで、大変な目に遭ってる人も多いと思うんですけど、これからはエンターテインメントの需要が高まり、楽しい時代が来ると思いますので一緒に楽しんでいきましょう!」
リング上での暴走ファイトとは全く違い、一つひとつの質問に言葉を選びながら応えてくれたのが印象的であった。現在のタッグパートナー・鈴木秀樹選手からいつもSNSや記者会見で「バカ」と言われたり、女子プロレスラーからビンタされたりしているが、意に介さない器の大きさも魅力の一つである。特にインタビューで印象的だったのは次の言葉である。
「俺はいつもド直球に真っ直ぐにしか物事を進められないんですよ。だから『バカ』って言われるのかな」そう言いながら笑う諏訪魔の笑顔は素朴で優しさに満ち溢れていた。
文:篁五郎