『アンメット』にも見られた記憶障害の演出が乱立している背景にあるものとは?【小林久乃】
少し前のクールで記憶障害が多数ドラマに取り扱われたことが話題に上がった。
『366日』(フジテレビ系)では、初回放送で事故に遭遇、ドラマ中盤で目を覚ました水野遥斗(眞栄田郷敦)は、それまでの記憶が消えていた。『アンメット ある脳外科医の日記』(関西テレビ、フジテレビ系)では、主役の川内ミヤビ(杉咲花)は事故によって、昨日までの記憶を忘れてしまう。『くるり~誰が私と恋をした?~』(T B S系)でも主役の緒方まこと(生見愛瑠)は、トラブルで階段から落ちた後に、記憶障害に。記憶のない自分の前に現れる3人の男性に戸惑う。
松下洸平の甘い演技が話題を呼んだ『9ボーダー』(ともにT B S系)は、実は神戸の資産家の跡取りだったコウタロウが、記憶を失ったまま大庭七苗(川口春奈)と恋に落ちた。『約束〜16年目の真実〜』(読売テレビ、日本テレビ)では中村アン演じる桐生葵が、記憶の一部を失っていた。これらの設定が1クールで放送されたと
いずれの作品でも最終話で記憶を取り戻して、終了。しかし、こんなにも簡単に人は記憶を失うものだろうか。そしてなぜこんなにも多く、記憶障害ドラマが増えたのか。生じた疑問について、ドラマオタクの海馬をフル回転させて、考えてみた。
◾️記憶障害が起こした演出効果とは?
同時期に放送された記憶障害の演出があるドラマ内で、圧倒的な人気だったのは『アンメット ある脳外科医の日記』だった。理由はいくつかあると思う。まずは普段、民放作品ではあまり見かけない、若葉竜也の出演が叶ったこと。それからドラマの演出が最終回まで余すところなく、丁寧だったことなど。
例えばミヤビが患者の学生とサッカーをするシーンで、顔にかかっていた泥が時間経過とともに乾いていた。通常は何度も泥を塗り直す、編集を続けるので、映像が繋がらず、「?」と思う時もある。ただ私もクリエイティブの一人として、そこは目を瞑る。時間も予算もないのはどこも同じだ。ただ本作では、前述のような些細な丁寧さが積み重なっていた。その丁寧さが功を奏したのだろうか。5作品内で唯一の漫画原作の作品であるにもかかわらず、全く違和感がなかった。原作者も感謝をS N Sにアップしていたこともよく覚えている。
では記憶障害という演出によって得られた効果はなんだろう? と、振り返る。『約束〜16年目の真実〜』は、実の妹を殺した犯人に辿り着くまでの障碍として、記憶を失っている。他作品は、記憶を失った者を囲む人間関係に恋愛感情が発生していた。相思相愛だった二人が引き裂かれたり、元恋人が気になってしまったり。要は感情がすれ違うことで、シーンの盛り上がりを呼び起こしていたのである。そこに要素としてふさわしかったのが、記憶障害だったわけだ。
確かに恋するふたりのすれ違いは、観ているこちらも「ああっ!」と声を漏らしてしまうほど、効果がある。なんの障害もなく結ばれてしまうのなら、映画もドラマも成立しない。