札幌・すすきのラブホテル殺人事件 〝怪物〟と化した3人家族の向こうに見えた映画【小林久乃】
日本国内には「うわ……」と声が漏れてしまう陰惨な事件が増発している。昭和、平成にももちろん事件はあったけれど、元号を重ねるごとに事件の解像度が低く、とても凡人の私には受け入れ難い事件が続いている。
それらの事件の一つとして常に話題へ上がるのが、昨年7月に起きてしまった札幌すすきの首切断事件だ。ラブホテルの一室で見つかった首無し遺体。殺害した犯人は恵まれた家庭のはずの親子だったという。事件の情報をテレビやネットニュースで読んでいるうちに、あるひとつの映画を思い出した。
◾️溺愛する娘のために起こしてしまった犯行
昨年、弁護士の友人が言っていた。
「札幌すすきので起きた事件には、ものすごく陰湿なものを直感する。全容がクリアになったら分かるけど、殺人事件だけではない何かが発覚する気がするんだよね」
専門家が言うのならそうだろうと思っていると、明るみになっていく事故詳細が酷すぎた。田村瑠奈(30)被告はラブホテルの一室で、会社員のAさんを殺害した。そしてノコギリで刻んだ遺体の一部を自宅に持ち帰った。この一連をほう助したとして逮捕されたのは、田村の両親だ。
瑠奈はいわゆるニート生活を送っており、近所の目にも触れることがなかった。自らを「ルルー」だと名乗り、両親には名前ではなく「お嬢さん」と呼ばせていた。ちなみに家の中は、瑠奈の指示通りにゴミで溢れかえっていたそうだ。両親は、家庭の中で躁うつ病(多重人格や統合失調症を満たすとも)の溺愛する娘の奴隷となっていた。奇しくも友人の推理は当たってしまった。
「そんなことになる前に、誰かに相談すれば」という声も聞こえてくるが、それは難しかったかもしれない。自宅の中ですくすく育ってしまった、常軌を逸する娘の成長。加えて父親の修(60)は精神科医と聞けば、誰も娘の成長には関与しないだろう。エリート一家がひたすら世間に隠していたのは、愛する娘であり、“怪物”だった。他にも魑魅、鬼畜と比喩に当てはまりそうな言葉を考えたけれど、やはり“怪物”がしっくりくる。