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ジェネラリストは存在しない? 【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第25回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第25回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中!


 

 

第25回 ジェネラリストは存在しない?

 

【専門職と総合職という区分】

 

 スペシャリストだけが生き残る社会になる、という話を30年ほど何度かしてきた。今回は、ジェネラリストなんて存在しないのではないか、について。

 日本の場合、大勢の人が大学に入学し、特に文系の人はなにかの専門になるわけでもなく、そのまま企業に就職する。会社には、総合職という意味不明の職種があって、多くはいろいろな部署を経験し(同時に転勤もしつつ)、退職するまでその企業に尽くす。「骨を埋める」などといったりもする。退職は墓場なのか。

 いわゆる「サラリーマン」が、安定の職業として長く認識され、「終身雇用」という日本独自の仕組みが戦後何十年も続いた。このシステムは崩れつつある。もちろん、それを堅持したい会社もあるだろうけれど、社員より会社の寿命の方が短くなってしまう確率が高い。

 「お仕事は何ですか?」と問われて、これまでは、勤めている企業の名前を答えたものだ。僕も若い頃は、この問いに「公務員です」と返答していた。しかし、いろいろな国の人たちと話をして、これが世界的に見て異様な状況だと気づかされた。何故なら、「勤め先」は「仕事」ではないからだ。仕事というのは、自分が担当する作業のことであり、自分が持っている技術、経験、知識で賃金を得る行為なのである。

 終身雇用が一般的だった頃には、仕事は会社に入ってから覚えるものであり、社内で経験を積んで能力を身につけた。普通はこの逆で、会社は、業務に必要な能力を持つ人を雇い入れるのが自然であり、就職時にはその個人がスペシャリストであることが好条件となる。これが世界的な常識である。もし、その職場で仕事をして、自分の能力がそこでは活かせない、割りが合わないと判断したら、別の職場へ移ることになる。

 日本の会社は、スペシャリストを求めず、能力的に白紙の若手を一斉に採用し、そこからスペシャリストを育てる。同時に、リーダになれる人(このような人材を「ジェネラリスト」と呼ぶようだが)も育てる、といった非効率なことが行われていた。だが。僕は日本以外でこの「ジェネラリスト」の呼称を聞いたことがない。リーダだってスペシャリストだ、というのが世界共通の認識だからだろう。

 ジェネラリストを育成しようとしてきた日本では、スペシャリストを馬鹿にする傾向があった。「専門馬鹿」などといわれるような場面も多かった。このような気風が日本で生まれたのは、終身雇用という独自のシステムによる。さて、それが崩壊した今、そしてこれからは、どうなるのか? 少し想像すれば、未来が見えてくるはず。

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 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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