ジェネラリストは存在しない? 【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第25回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第25回
【ジェネラリストはいらなくなるのか?】
これも、何度か書いてきたことだが、日本の雑誌はジェネラルすぎる。「もっとスペシャルなものにしていかないと、いずれ売れなくなりますよ」と出版社の人たちに話した。そして、結局そのとおりになった。日本の雑誌は全滅しそうだ。生き残る雑誌といえば、小さな出版社が発行しているスペシャルな趣味誌だけである。ただ、たとえば、鉄道模型の雑誌であっても、日本の趣味誌は、まだジェネラルすぎる。もっとジャンルを絞る必要があるだろう。
ネットが発達したことで、どんな情報や商品も世界中から検索し、アクセスすることができるようになった。つまり、個々の雑誌やお店などがジェネラルを目指し、品揃えをいくら増やしても、とうてい対抗できない状況になっている。これはつまり、ジェネラルである意味が消失した状況だ。デパートもホームセンタもショッピングセンタも、品揃えでは生き残れないし、ノウハウを語るサービスでも生き残れない。いずれも、ネットの方が充実しているし便利だからだ。
当然ながら、個人の技能においても、比類の専門性が高い価値を持つ。幅広い知識や経験は必要ない。また、優れた才能を、どこからでもピンポイントで求めることができる。文章化できない技術、あるいは、まだ文章化されていない情報だけが、価値を維持する。
AIによって共有されるのは、需要がある程度大きくなった対象であり、需要が小さいものほど、つまりマイナなものほど、生き残る期間が長くなるだろう。
ジェネラルは、日本人が長く囚われていた幻想だといっても良い。ジェネラルな存在が廃れるのではなく、もともとそんなものはなかった、と見るべきだろう。今後は、ジェネラルを目指すような学科(いわゆる文系の大半)は、アイデンティティの再確認/再構築に迫られる(本来のスペシャルな指向を取り戻すしかない)。大学の該当学科はサバイバルになる。もうなっている、というのが正しいが、少子化の影響だと勘違いしている向きもある。
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世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?
森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。