ジェネラリストは存在しない? 【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第25回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ジェネラリストは存在しない? 【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第25回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第25回

 

【スポーツ観戦から離脱した人生】

 

 作家の仕事をもう何カ月もしていない。この連載だけが唯一の例外。しかし、だいぶ以前から仕事量を減らしているから、生活に大きな変化はない。

 庭仕事は一段落したので、工作や工事を進めている。ときどき、YouTubeで途中経過や成果などをアップしているし、毎日ブログもほんの少し書いてる。

 オリンピックをやっているらしい。民衆にわかりやすい娯楽を与えて、反抗の芽を摘もうとしたローマ時代のコロシアムを連想させる。このときに限って自国を選手を応援する人たちは、いったいどんな立場なのか、僕には理解ができない。まあ、そういう特殊な趣味なのだな、と解釈するしかない。また、選手たちはきっと「皆さんの応援のおかげです」という決まり文句を語るのだろう。プロというのは商売だからしかたがないけれど、あれが嫌で僕はスポーツを観なくなった。古い人間だから、綺麗事が好きになれない。

 今日は、午前中に奥様(あえて敬称)と犬一匹と一緒にクラシックカーで高原をドライブした。以前に訪れたハーブ農園の近くを通ったとき、僕が「行ったことがあるね、えっと、ラズベリィだったっけ」と話したら、奥様が「惜しい」とおっしゃった。5秒後にいい直した、「あ、ラベンダか」と。

 

早朝の庭園を犬と一緒に散策。のちほど鉄道を運行するので、線路上に枯枝が落ちていないかを見回る目的もある。枯枝を見つけたら、拾って遠くへ投げるのだが、犬はそれを待ち構えていて、吠えて喜び、走り回る。

 

文:森博嗣

 

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静かに生きて考える   Thinking in Calm Life

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森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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